調査でわかったこと

妊娠中にフタルエステルにさらされると、子どものホルモンバランス乱れる

プラスチックや塩化ビニルには、原料に混ぜて形成を助けるフタル酸エステル(フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):DEHP)という物質が含まれています。この物質は、動物実験で生殖器系への毒性が報告されています。そこで、生殖器系の発生に重要な役割を担うホルモンと、DEHPとの関係を検討しました。

この研究が明らかにしたこと

お母さんの妊娠中の血液に含まれるDEHP濃度が高いと、特に男の子でインヒビンBとインスリン様因子(INSL-3: Insulin like factor-3)というホルモンが低くなりました。また男の子、女の子とも、アンドロゲン、エストロゲン、コルチゾンなどの特定のホルモンが減ったり、逆に増えたり、また二つのホルモンの濃度比が変化したり、といった影響がみられました。動物実験で報告されていたDEHPによる生殖系への影響が、人でも見られることを明らかにしました。

何を調べたの?

お母さんの妊娠中の血液に含まれる、フタル酸エステルDEHPの濃度を測定しました。また、赤ちゃんの臍帯血(へその緒の血液)に含まれるステロイドホルモンや性ホルモンの濃度を調べました。

フタル酸エステル類とは?

プラスチック製品などを軟らかくするために使用されています。中でも、約60%の生産量を占めるDEHPはポリ塩化ビニルの製造に広く使われ、部屋の床材や壁材などの内装材、おもちゃ、プラスチック容器に含まれています。

この研究から言えること

インヒビンBとINSL-3はホルモンの一種です。男児の場合、精巣内にある、将来精子を作る細胞から分泌されます。将来精子を作る細胞です。二つのホルモン量が少ないことは、胎児期の精巣の分化・発育に影響があった可能性があります。また、アンドロゲンやエストロゲンは、生殖器の成熟のみならず代謝、成長、発達、免疫系など、体の様々な部分に大きな役割を担っているホルモンです。生まれたときのホルモンバランスの乱れが、その後子どもの生殖器系の発達に悪影響をおよぼすか、今後研究を継続していく必要があると考えられます。

出典:
Araki A, et al. Prenatal di(2-ethylhexyl) phthalate exposure and disruption of adrenal androgens and glucocorticoids levels in cord blood: The Hokkaido Study. Science of the Total Environment, vol.581-582: 297-304, 2017
Araki A, et al. Association between Maternal Exposure to di(2-ethylhexyl) Phthalate and Reproductive Hormone Levels in Fetal Blood: The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health PLOS ONE. 9 e109039, 2014.