概要
妊婦さんを取り巻く化学物質等を含む環境は大きく変わってきています。この変化にともなって、環境が妊婦さん及びそのお子さんの健康に影響を及ぼす可能性を大きくしている恐れがあります。ヒトの身体は、健康と病気の間で連続的に変化しています。お子さんたちの中では、環境中にある物質が原因とされる病気、例えば喘息やアレルギー等が増えています。その病気の多くは、環境と遺伝が関係しあって起こると言われています。病気に対して弱いとされているお子さんたちの健やかな成長及び発達に、環境と遺伝が病気や健康に及ぼす影響を明らかにすることは重要です。
一般的に妊娠中は控えた方が良いとされる、喫煙やカフェイン摂取。また、既に健康に悪影響があるため現在では製造・使用が世界的に禁止されている化学物質のダイオキシン類。北海道スタディでは、妊娠中のダイオキシン類等の化学物質や喫煙、カフェイン摂取が赤ちゃんの出生体重に与える影響に加えて、妊婦さんの遺伝型によってそれらの影響の大きさが異なるかどうかを調べています。
調査方法と調査結果

特任准教授 小林 澄貴
大きく2つの調査を行っています。
- 妊娠中の参加者みなさんに協力してもらい、妊娠中の喫煙習慣(能動喫煙と受動喫煙を区別)やカフェイン摂取量、そして赤ちゃんの出生体重について、質問票でデータを集める。
- 妊娠中の参加者みなさんに血液を提供してもらい、血液中のニコチン、ダイオキシン類の血中濃度を測定。同時に血中のDNAから遺伝型を調べる。
喫煙は出生体重に影響する
非喫煙者と比べて、妊娠中に能動喫煙していた妊婦から産まれた赤ちゃんは、出生体重が平均で135g小さいという結果が得られています。
喫煙+遺伝型はさらに出生体重に大きく影響する
喫煙と妊婦の遺伝型について調べたところ、AHRとCYP1A1という遺伝型を持っていて、かつ喫煙していた妊婦から産まれた赤ちゃんの出生体重は、平均315g小さいという結果が得られています。
これらのことから、妊娠中の喫煙に加え、妊婦の遺伝型によって、その影響の大きさが異なることがわかっています。この影響は、能動喫煙でみられた傾向です。

(参考文献:Sasaki S, et al. Mol Hum Reprod. 2006; 12 (2): 77-83.)
カフェイン+遺伝型は出生体重に影響する場合がある
カフェインの分解に関わるCYP1A2という遺伝型に注目し、妊婦のCYP1A2遺伝子がCC/CA型のグループと、AA型のグループを比較しました。
結果、CC/CA型ではカフェインの影響はほとんど見られませんでした。それに比べてAA型では、妊娠中に1日300mg以上カフェインを摂取した場合に、出生体重で平均277gの減少がみられました。
ダイオキシン類+遺伝型は出生体重に影響する場合がある
妊娠中、ダイオキシン類に10倍多くさらされた場合、出生体重がどれほど違うかを調べています。ダイオキシン類の分解に関わるGSTM1という遺伝子に注目し、GSTM1遺伝子がNull型のグループとNon-null型のグループを比較しました。
結果、Non-null型では出生体重は+38g ~ -91gだったのに対し、Null型では-214g ~ -359gと、より大きな減少がみられました。これは、Null型の妊婦はNon-null型の妊婦に比べ、ダイオキシン類の影響をより大きく受けることを示しています。

(参考文献:Kobayashi S, et al. Reprod Toxicol. 2017; 67: 111-116.)
以上の結果から、妊娠中に喫煙、カフェイン摂取、ダイオキシン類を妊婦が浴びることが、産まれてくる赤ちゃんの出生体重に影響し、減少させることが推察されます。また、その影響の大きさは、妊婦の遺伝型によって異なると考えられます。今回は、出生体重についてお話ししました。これまでに他にも、有機フッ素化合物及びフタル酸エステル類などの化学物質を妊婦が曝されることが、妊婦の脂肪酸濃度、生まれてくる子どもの性ホルモン濃度及び男女に分かれる過程である性分化などにどのような影響を与えているかについても明らかにしてきました。
今後の研究課題
これまで明らかになったのは、産まれた直後の出生時の体格への影響です。そこで、子どもが発達及び成長していく上でも、影響が続くのか、また、妊婦の遺伝型によって影響に差があるのかなど、引き続き調査していきます。
調査を通して、遺伝型によって、喫煙、カフェイン摂取、ダイオキシン類、有機フッ素化合物、フタル酸エステル類の影響に違いがあることがわかり、このことから妊婦に限らず遺伝型による健康への影響に差があり、影響を受けやすい人たちがいると推察されます。このような調査結果を活かし、誰もが健康で安心して暮らせる環境づくりに貢献したいと考えています。
参考論文
- Sasaki S., Kondo T., Sata F., Saijo Y., Katoh S., Nakajima S., Ishizuka M., Fujita S., Kishi R.; Maternal smoking during pregnancy and genetic polymorphisms in the Ah receptor, CYP1A1 and GSTM1 affect infant birth size in Japanese subjects. Mol Hum Reprod. 12 (2):77-83, 2006 Feb.
- Kobayashi S., Sata F., Sasaki S., Braimoh T. S., Araki A., Miyashita C., Goudarzi H., Kobayashi S., Kishi R.; Modification of adverse health effects of maternal active and passive smoking by genetic susceptibility: Dose-dependent association of plasma cotinine with infant birth size among Japanese women-The Hokkaido Study. Reprod Toxicol. 74 94-103, 2017 Dec.
キーワード
喫煙、カフェイン、ダイオキシン、出生体重、血液、妊婦、遺伝型