この研究の背景
妊娠中に起こる甲状腺機能低下症は、その原因のほとんどが抗甲状腺抗体(TA)です。PFAS(有機フッ素化合物)は、乳化剤、コーティング剤など、幅広く用いられている化学物質で、PFASが妊娠中のお母さんに曝されると、甲状腺ホルモン(TH)が攪乱されることが明らかになっています。しかしこれまで、、TAにどんな影響を及ぼすのかを検討した研究はありません。
この研究の目的
北海道スタディでは、妊娠中のお母さんへのPFASの曝露濃度と、 お母さんおよび子どものTHおよびTAとの関係を調べました。
どのようにして調べたの?
- 239組の母児ペアを対象に、お母さんの血液中のDLCsと臍帯血中のIgEとの関係を解析しました。
- 327組の母児ペアを対象に、お子さまが5歳になったときの追跡調査アンケートに回答していただきました。
- 264組の母児ペアを対象に、お子さまが7歳になったときの追跡調査アンケートに回答していただきました。
- 上記2と3を通し、DLCsとお子さまのアレルギーや感染症との関係を解析しました。
この研究が明らかにしたこと
TA陰性群とTA陽性群のお母さんでは、お母さんのFT3とPFASの間に*正相関が見られました。お母さんのPFOA(PFASの1つ)とTPOAbの間に*逆相関が見られました。TA陰性群のお母さんのPFASが、男の子のTSH上昇に関与していましたが、FT3とは*逆相関が見られました。TA陽性群のお母さんのPFASは、男の子のTSHの低下に関与していました。TA陰性群のお母さんのPFASは、女の子のFT3上昇と関与していましたが、TSHとは*逆相関を示しました。TA陽性群のお母さんのPFASと女の子のFT4の間には*逆相関が見られました。TA陰性群のお母さんのPFASと、男の子のTgAbの低下には関連性がみられましたが、TA陽性群のお母さんのPFASと、女の子のTgAbには*正相関が見られました。
*正相関:一方が増えると、他方も増えること;逆相関:一方が増えると、他方が減ること
この研究で得られたこと
この研究では、PFASの胎内曝露が、たとえ少量でも、THとTAに影響を与え、その結果、甲状腺ホルモンおよび抗体値の攪乱を引き起こす可能性があることがわかりました。また、甲状腺の攪乱に対する影響は、お母さんのTAの濃度によることも示唆されました。今後は、神経発達を調べるための長期的な追跡調査を行い、胎児期・新生児期に変化した甲状腺ホルモン濃度が成長後にどのように影響していくのかを明らかにする必要があると考えられます。
出典:
Sachiko Itoh, Atsuko Araki, Chihiro Miyashita, et al., Association between perfluoroalkyl substance exposure and thyroid hormone/thyroid antibody levels in maternal and cord blood: The Hokkaido Study. Environment International 133 (2019) 105139.
(2020 IF: 9.621)