介護保険制度が導入され、地域で高齢者の生活や健康を支える基盤整備が進められています。専門機関や行政による支援の充実と同時に、家族・友人・近隣などの身近な人間関係が高齢者の心身にもたらす影響に注目し、高齢者をめぐる手段的・情緒的なサポートネットワークの拡充を図っていくことが重要です。
高齢者サポートネットワーク研究のグループでは、1991年から道内3地域(大都市、農村、旧産炭過疎地)で長期的な前向きコホート研究を行い、高齢者をめぐるサポートネットワークと種々の健康指標(ADL、抑うつ、早期死亡、要介護状態、医療費など)の関連について多面的に検討を行ってきました。
サポートネットワークの地域差や性差、年齢差を分析し、大都市の一人暮らし男性や、後期高齢者(とくに女性)に向けてのサポート強化が必要になること、男性において団体参加や情緒的サポート受領が早期死亡リスクを低減すること、女性において親密な近所つきあいや他者へのサポート提供が、その後の要介護状態になるリスクを低減することなどを明らかにしてきました。
さらに、2007年には本別町、鷹栖町にて、2008年には日高町、新ひだか町において、在宅高齢者を対象とした予防的家庭訪問による介入調査を実施しました。この結果、作業療法学的ツールを利用した家庭訪問により認知機能や抑うつ症状に予防的に作用することが示唆されました。
研究実績
Books(著書)
- 笹谷春美, 岸玲子, 太田貞司; 介護予防: 日本と北欧の戦略. 介護予防―日本と北欧の戦略 [単行本]. 16-26,85-105,127-137,138-145, 2009.
Original Articles, Reviews w/peer(原著論文、総説 等)
English(英文)
- Sato T., Kishi R., Suzukawa A., Horikawa N., Saijo Y., Yoshioka E.; Effects of social relationships on mortality of the elderly: how do the influences change with the passage of time? Arch Gerontol Geriatr. 47 (3):327-339, 2008.
- Tsukishima E., Saito H., Shido K., Kobashi G., Ying-Yan G., Kishi R., Takeuchi S., Niino M., Kondo K., Sugimura I.; Cranial computed tomography associated with development of functional dependence in a community-based elderly population. J Epidemiol. 12 (2):153-159, 2002.
- Tsukishima E., Saito H., Shido K., Kobashi G., Ying-Yan G., Kishi R., Niino M., Kondo K., Sugimura I.; Long-term blood pressure variability and cerebrovascular changes on CT in a community-based elderly population. J Epidemiol. 11 (4):190-198, 2001.
Japanese(和文)
- 鵜川重和, 池野多美子, 川畑智子, 湯浅資之; 在宅高齢者生活機能向上ツールを用いた予防型家庭訪問-家庭訪問の意義と今後の課題-. 保健師ジャーナル. 67 (12):1118-1123, 2011.
- 鵜川重和, 佐藤浩樹, 池野多美子, 湯浅資之, 川畑智子, 吉岡英治, 村田和香, 生駒一憲, 岸玲子; 在宅高齢者生活機能向上ツールを用いた家庭訪問研究 認知機能への効果. 北海道農村医学会雑誌. 43 52-56, 2011.
- 三觜雄, 岸玲子, 江口照子, 三宅浩次, 笹谷春美, 前田信雄, 堀川尚子; ソーシャルサポート・ネットワークと在宅高齢者の検診受診行動の関連性 社会的背景の異なる三地域の比較. 日本公衆衛生雑誌. 53 (2):92-104, 2006.
- 岸玲子; 地域におけるサポートネットワークと高齢者の介護予防. 秋田県公衆衛生学雑誌. 4 (1):1-11, 2006.
- 佐藤徹郎, 岸玲子, 堀川尚子; 農村高齢者の死亡に影響を及ぼす社会的サポート・ネットワーク. 北海道農村医学会雑誌. 37 112-117, 2005.
- 岸玲子, 堀川尚子; 高齢者の早期死亡ならびに身体機能に及ぼす社会的サポートネットワークの役割 内外の研究動向と今後の課題. 日本公衆衛生雑誌. 51 (2):79-93, 2004.
- 三觜雄, 岸玲子, 江口照子, 三宅浩次, 前田信雄; 在宅高齢者の検診受診行動と関連する要因 社会的背景の異なる三地域の比較. 日本公衆衛生雑誌. 50 (1):49-61, 2003.
- 築島恵理, 岸玲子; 健康高齢者の脳の画像所見と関連する危険要因及び精神神経機能について 地域における脳画像健診後の保健指導のために. 日本公衆衛生雑誌. 45 (11):1039-1049, 1998.
- 江口照子, 岸玲子, 笹谷春美, 他; 札幌の在宅高齢者(69~71歳)の健康状態. 北海道公衆衛生学雑誌. 9 (2):215-223, 1996.
- 岸玲子, 江口照子, 前田信雄, 他; 前期高齢者と後期高齢者の健康状態とソーシャルサポート・ネットワーク 農村地域における高齢者(69~80歳)の比較研究. 日本公衆衛生雑誌. 43 (12):1009-1023, 1996.
- 岸玲子, 江口照子, 笹谷春美, 矢口孝行; 高齢者のソーシャル・サポートおよびネットワークの現状と健康状態 旧産炭地・夕張と大都市・札幌の実態. 日本公衆衛生雑誌. 41 (5):474-488, 1994.
- 岸玲子, 江口照子, 笹谷春美, 矢口孝行; 旧産炭地・夕張市における69・70歳老人の健康状態 高齢者のためのソーシャル・サポートとネットワーク構築のための基礎調査. 北海道公衆衛生学雑誌. 7 (2):203-210, 1994.
Articles w/o peer(解説、その他)
Japanese(和文)
- 鵜川重和, 湯浅資之, 池野多美子, 吉岡英治, 佐藤浩樹, 村田和香, 生駒一憲, 岸玲子; 在宅高齢者生活機能向上ツールを用いた家庭訪問と日常会話のみによる家庭訪問の認知機能改善に関する無作為化比較試験. 北海道医学雑誌. 87 (4-5):185, 2012.
- 岸玲子, 堀川尚子, 佐藤徹郎, 西條泰明, 吉岡英治, 浦田泰成, 笹谷春美, 杉村巌; 要介護状態予防のための社会活動性と社会的サポート・ネットワークの役割-農村部A町における高齢者の長期縦断研究. 高齢者問題研究. (21):105-119, 2005.
- 岸玲子, 浦田泰成, 西條泰明, 堀川尚子, 佐藤徹郎, 吉岡英治; 高齢者の抑うつにおよぼすストレスフルイベントの影響と社会的サポートネットワークの予防的役割-北海道における縦断研究. 精神神經學雜誌. 107 (4):369-377, 2005.
- 岸玲子, 浦田泰成, 西條泰明, 堀川尚子, 佐藤徹郎, 吉岡英治; 高齢者の医療・介護・福祉の統合をめざして 高齢者の抑うつにおよぼすストレスフルイベントの影響と社会的サポートネットワークの予防的役割 北海道における縦断研究. 精神神経学雑誌. 107 (4):369-377, 2005.
- 岸玲子; 高齢社会の課題と展望 介護予防と高齢者の社会的サポートネットワーク. 北海道医学雑誌. 78 (2):115-116, 2003.
- 増地あゆみ, 岸玲子; 高齢者の抑うつとその関連要因についての文献的考察 ソーシャルサポート・ネットワークとの関連を中心に. 日本公衆衛生雑誌. 48 (6):435-448, 2001.
- 岸玲子, 築島恵里, 小橋元, 志渡晃一, 杉村巌; 高齢者が地域で在宅生活を継続するための生活機能およびソーシャル・サポートの検討. 高齢者問題研究. (15):195-207, 1999.
- 岸玲子, 築島恵理; 農村における高齢者の健康状態と社会的支援及びネットワークの現状と保健福祉の課題. 日本農村医学会雑誌. 47 (6):819-827, 1999.
- 笹谷春美, 岸玲子, 江口照子; 家族介護をめぐる人間関係-夫婦間ケアリングを支える物質的・規範的要因-. 高齢者問題研究. (13):123-138, 1997.
- 岸玲子, 笹谷春美, 矢口孝行, 江口照子; 地域サポートおよびネットワークの変容と関連する保健医療福祉の問題-旧産炭(過疎)地における大正10年・11年生まれ高齢者の追跡的研究. 高齢者問題研究. (11):45-59, 1995.
- 笹谷春美, 岸玲子, 江口照子, 矢口孝行; 高齢者調査における回答者と非回答者の比較研究-過疎地と大都市における70歳男女の「ソーシャルサポートネットワークと健康」に関する社会学的・医学的研究. 高齢者問題研究. (10):29-41, 1994.