室内空気質と健康

平成26 – 27年度厚生労働科学研究費補助金健康安全・危機管理対策総合研究事業「科学的工ビデンスに基づく『新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル(改訂版)』の作成」研究班が作成いたしました「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」が厚生労働省のホームページで公開されました。当センターからは、岸、荒木、湊屋、アイツバマイの4名が執筆いたしました。

以下、研究代表者である岸玲子特別招へい教授からのコメントです。

「私たちは一日の生活時間の多くを室内で過ごします。自宅のみならず、職場、学校、病院や各種施設の室内環境中の空気の質は、人びとの健康に大きな影響を与えます。このマニュアルは保健所などの住まいの相談窓口の方や、学校、職域などで衛生管理を行っている方、あるいは地域の診療機関の医師などが、市民からの種々の質問や相談を受ける際に、どのようなことを知っておくといいのか?その基本的な答えや説明の方法を上手に見つけられるように工夫してあります。シックハウス症候群に関する正しい知識の普及と、相談に対して科学的根拠をふまえた回答により、多くの皆様に活用されることを心より願っています。」

ぜひ、ご一読ください。

厚生労働省:シックハウス対策のページへのリンク

近年、人は1日のうちの多くの時間を室内ですごすため、生活の中で水・食と並んで空気質は重要な環境要因です。私たちの研究グループでは、これまでに一般住宅、および小学生児童を対象に、室内環境要因とシックハウス症候群の症状出現との関連を明らかにするための疫学研究を2001年にスタートさせました。また、これまでに得られた結果をもとに、2009年に日本公衆衛生協会から保健所担当職員向けの「予防対策マニュアル」を出版しています。

具体的には、次のような研究を行っています。

(1)札幌市の築年数の浅い住宅についての、シックハウス症候群の症状とアルデヒド類・VOC類の化学物質、湿度環境(カビ、結露)との関連についての研究を行いました。札幌市衛生研究所、北海道立衛生研究所、札幌市のハウジングメーカーの協力により、札幌市の新築住宅に調査参加を依頼し、96軒の戸建て住宅の室内環境調査を実施しました。

(2)札幌市の調査を発展させ、全国6地域(札幌、福島、名古屋、大阪、岡山、北九州)で共通のプロトコールを用いて、シックハウス症候群の実態と原因解明を目的とした疫学研究を実施しました。2003年に「建築確認申請」から築5年以内の戸建住宅6080軒を無作為に抽出しに、住宅の状況と家族の健康に関する質問紙調査票を送付しました。2004年には同意が得られた住宅について、室内の環境測定と全居住者の自覚症状の調査を実施。2005年、2006年と追跡調査を行い、各住宅の空気室内環境の変化とともに、自覚症状の変化についても検討しました。調査項目としては、一般的にシックハウス症候群の原因物質として測定されるホルムアルデヒドやトルエン・キシレンなどの化学物質だけではなく、アルデヒド類・VOC類50種類以上に加えて、空気中の真菌同定、床塵中ダニアレルゲン量、さらに2006年には床塵中の半揮発性化学物質(Semi-Volatile Organic Compounds)のうちプラスチック可塑剤や難燃剤として利用されるフタル酸エステル類やリン酸トリエステル類、カビや細菌などの微生物が産生する空気中の微生物由来揮発性化学物質(Microbial VOC:MVOC)類の測定も実施しています。特に、シックハウス症候群の原因物質としては化学物質のみならず、湿度環境の悪化(結露やカビの生育、ダンプネス、dampness)の問題を提示しています。

(3)シックハウス症候群の有訴は大人よりも子供に多いことから、全国5地域(旭川、札幌、福島、大阪、太宰府)において、小学生児童を対象としたシックハウス症候群の原因解明のための疫学研究を開始しました。2008年に10816人の公立小学校に通う児童に調査票を配付、2009-2010年には同意が得られた児童の自宅の環境測定と自覚症状の調査を実施しました。札幌市では公立小学校12校に協力頂き、6400人の質問紙調査、そして128軒の自宅環境調査を行っています。室内空気質としては、アルデヒド類・VOC類・MVOC類、床塵中のエンドトキシン量・βグルカン量、床塵中ダニアレルゲン量、床塵中のフタル酸エステル類やリン酸トリエステル類、二酸化炭素濃度を測定しました。

今後は、個人の曝露量を評価するため、携帯サンプラーを用いた調査や、尿中のフタル酸エステル類代謝物濃度の測定を実施する予定です。また、シックハウス症候群だけではなく、ダンプネス、化学物質、フタル酸エステル類、MVOC類などによる室内空気質の汚染とアレルギーや喘息との関連についても解析を進めています。

研究実績

Reports(報告書)

  • 環境研究総合推進費「可塑剤・難燃剤の曝露評価手法の開発と小児アレルギー・リスク評価への応用」による委託業務 平成25年度 委託業務報告書
  • 環境研究総合推進費「可塑剤・難燃剤の曝露評価手法の開発と小児アレルギー・リスク評価への応用」による委託業務 中間研究等成果報告書
  • 環境研究総合推進費「可塑剤・難燃剤の曝露評価手法の開発と小児アレルギー・リスク評価への応用」による委託業務 平成24年度 委託業務報告書
  • 環境研究総合推進費「可塑剤・難燃剤の曝露評価手法の開発と小児アレルギー・リスク評価への応用」による委託業務 平成23年度 委託業務報告書
  • 厚生労働科学研究費補助金 健康安全・危機管理対策総合研究事業 平成20-22年度 総合研究報告書「シックハウス症候群の原因解明のための全国規模の疫学研究-化学物質及び真菌・ダニ等による健康影響の評価と対策」 岸玲子
  • 厚生労働科学研究費補助金 健康安全・危機管理対策総合研究事業 平成22年度 総括・分担研究報告書 「シックハウス症候群の原因解明のための全国規模の疫学研究-化学物質及び真菌・ダニ等による健康影響の評価と対策」 岸玲子
  • 厚生労働科学研究費補助金 地域健康危機管理研究事業 平成18-19年度 総合研究報告書 「シックハウス症候群の実態解明及び具体的対応方策に関する研究」岸 玲子
  • 厚生労働科学研究費補助金 健康科学総合研究事業 平成15-17年度総合研究報告書 「全国規模の疫学研究によるシックハウス症候群の実態と原因の解明」岸玲 子

Books(著書)

  • 厚生労働科学研究「シックハウス症候群の実態解明および具体的対応方策に関する研究」班:「シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル」日本公衆衛生協会、115、2009.
  • 荒木敦子、岸玲子:室内空気質による健康障害「産業安全保健ハンドブック」労働科学研究所、844-847、2013.

Original Articles, Reviews w/peer(原著論文、総説 等)

English(英文)
Japanese(和文)
  • 荒木敦子, 金沢文子, 西條泰明, 岸玲子; 札幌市戸建住宅における3 年の室内環境とシックハウス症候群有訴の変化. 日本衛生学雑誌. 66 (3):589-599, 2011.
  • 竹田智哉, 荒木敦子, アイツバマイゆふ, 齋藤育江, 早川敦司, 吉 岡英治, 金沢文子, 湯浅資之, 岸玲子; 小学生のシックハウス症候群の有訴 と自宅の床ダスト中有機リン酸トリエステル類濃度との関連. 北海道公衆衛 生学雑誌. 24 (2):73-84, 2010.
  • 金澤 文子, 西條 泰明, 田中 正敏, 吉村 健清, 力 寿雄, 瀧川 智 子, 森本 兼曩, 中山 邦夫, 柴田 英治, 岸 玲子; シックハウス症候群につ いての全国規模の疫学調査研究 -寒冷地札幌市と本州・九州の戸建住宅にお ける環境要因の比較-. 日本衛生学雑誌. 65 (3):447-458, 2010.
  • 田中かづ子, 岸玲子, 西條泰明, 中山邦夫, 森本兼曩, 瀧川智子, 柴田英治, 力寿雄, 吉村健清, 田中正敏; シックハウス症候群と住まい方- 居住環境にかかわる疾病予防-. 厚生の指標. 56 (7):24-31, 2009.
  • 西條 泰明, 吉田 貴彦, 岸 玲子; シックハウス症候群への湿度環境・生物学的汚染の影響. 日本衛生学雑誌. 64 (3):665-671, 2009.
  • 金澤 文子, 岸 玲子; 半揮発性有機化合物による室内汚染と健康への影響. 日本衛生学雑誌. 64 (3):672-682, 2009.
  • 力 寿雄, 岩本 眞二, 吉村 健清; 揮発性有機化合物(VOC)による室内空気汚染の実態-室内/屋外濃度,発生源および曝露について-. 日本衛生学雑誌. 64 (3):683-688, 2009.
  • 中山 邦夫, 森本 兼曩; シックハウス症状に及ぼすライフスタイル・住まい方のリスク-全国疫学調査より-. 日本衛生学雑誌. 64 (3):689-698, 2009.
  • 長谷川 友紀, 城川 美佳; シックハウス症候群に対する行政対応と課題. 日本衛生学雑誌. 64 (3):699-703, 2009.
  • 城川 美佳, 岸 玲子, 長谷川 友紀; 東京都特別区におけるシックハ ウス症候群の有病率 電話調査による推計. 民族衛生. 73 (3):99-111, 2007.
  • 西條 泰明, 岸 玲子, 佐田 文宏, 片倉 洋子, 浦嶋 幸雄, 畠山 亜 希子, 向原 紀彦, 小林 智, 神 和夫, 飯倉 洋治; シックハウス症候群の症 状と関連する要因 北海道の一般住宅を対象にした実態調査. 日本公衆衛生 雑誌. 49 (11):1169-1183, 2002.

Articles w/o peer(解説、その他)

  • 荒木 敦子, 金澤 文子, 河合 俊夫, 永滝 陽子, 森本 兼曩, 中山 邦夫, 柴田 英治, 田中 正敏, 瀧川 智子, 吉村 健清, 力 寿雄, 西條 泰明, 岸 玲子; Best articles of the year:戸建て住宅における微生物由来揮発性有機化合物曝露と居住者のアレルギーとの関連. 北海道医学雑誌. 87 (6):286, 2012.
  • アイツバマイ ゆふ, 荒木 敦子, 岸 玲子; 室内空気質中フタル酸エステル類曝露とアレルギーへの影響. Endocrine Disrupter News Letter. 15 (1):2, 2012.
  • 荒木敦子, 金澤文子, 西條泰明, 岸玲子; 表彰論文要旨:札幌市戸建住宅における3年間の室内環境とシックハウス症候群有訴の変化. 北海道公 衆衛生学雑誌. 25 (2):34-36, 2011.
  • 岸玲子, 荒木敦子; 特集 環境リスク シックハウス症候群に関する研究の現状と今後の課題. 公衆衛生. 74 (4):295-299, 2010.
  • 岸 玲子; シックハウス症候群に関する研究の現状と本特集の意義. 日本衛生学雑誌. 64 (3):663-664, 2009.
  • 山下京子, 荒木敦子, 水野信太郎, 岸玲子; 【特集:シックハウスと寒冷地I.】北海道における寒冷地住宅の建築学的特徴. ビルと環境. 125 4-10, 2009.
  • 金沢文子, 西條泰明, 田中正敏, 吉村健清, 力寿雄, 瀧川 智子, 森本 兼曩, 中山 邦夫, 柴田 英治, 岸 玲子; 【特集:シックハウスと寒冷地II.】新築戸建て住宅のダンプネスとシックハウス症候群. ビルと環境. 125 11-14, 2009.
  • 荒木敦子, 西條泰明, 森本兼曩, 中山邦夫, 瀧川智子, 田中正敏, 吉村健清, 力久雄, 岸玲子; 【特集:シックハウスと寒冷地III.】住宅の環境測定結果からみた北海道の住宅と本州地域の比較. ビルと環境. 125 17-22, 2009.
  • 西條 泰明; 【特集:シックハウスと寒冷地VI.】北海道の建物. ビルと環境. 125 23-25, 2009.
  • 田中正敏; 風土、そして居住環境について. 福島学院大学紀要. 41: 33-39, 2009.
  • 瀧川智子, 汪達紘, 荻野景規; シックハウス症候群とその予防策. 日本予防医学会雑誌. 4: 3-7, 2009.
  • 田中正敏; 生活習慣と健康づくり. 福島学院大学紀要. 40: 17-26, 2008.
  • 岸玲子, 竹田誠, 金澤文子, 荒木敦子; シックハウス症候群の疫学- 最近の知見-. 日本医事新報. 4370: 73-76, 2008.
  • 城川 美佳, 岸 玲子, 長谷川 友紀; シックハウス症候群の有病状況 の推計 電話調査による東京特別区の2002年と2004年の経年差. 厚生の指標. 54 (13):35-43, 2007.
  • 岸 玲子, 西條 泰明; 【現時点におけるシックハウス症候群の疾患 概念と今後の課題】 シックハウス症候群の疫学. アレルギーの臨床. 25 (7):547-553, 2005.

プロジェクト研究