複数のリン系難燃剤に子供が曝されると、尿中の酸化ストレスバイオマーカー変化するの?

この研究の背景

火災が発生したとき、周辺の物を燃えにくくする物質に難燃剤があります。臭素系難燃剤は、テレビやパソコンなど、室内のさまざまな製品に使用されていますが、その一部が、残留性有機汚染物質として指定されたため、その代替え難燃剤として、リン系難燃剤(PFR)の利用が増えると予測されています。しかし、ヒトにおけるPFR暴露と健康との関連性を報告した研究はわずかしかありません。また、酸化ストレスバイオマーカーは、小児アトピー性皮膚炎の発症および進行に関与していると言われますが、子どもにおけるPFRへの曝露と酸化ストレスバイオマーカーとの関係については明らかになっていません。

この研究の目的

北海道スタディでは、子どもの尿中のPFR代謝物、PFR代謝物の混合物、酸化ストレスバイオマーカーの3点の関連性を調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 400人の7歳のお子さまが対象となりました。
  2. お子さまの朝一番の尿サンプルから、14種類のPFR代謝物の濃度を測定しました。
  3. 上記1と同じ尿サンプルから、3種類の酸化ストレスバイオマーカーの濃度を測定しました。
  4. 上記2のPFR代謝物あるいはその混合物と、上記3の関係について解析しました。
この研究が明らかにしたこと

3種類の酸化ストレスバイオマーカー(8-OHdG、HEL、HNE)は、全サンプルより検出されました。一方で、90%を超えるサンプルから、4種類のPFR(DPHP、EHPHP、BBOEHEP、BCIPHIPP)が検出されました。DPHPとEHPHPは、3種類すべての酸化ストレスバイオマーカーと強い相関関係がありました。PFR代謝物の混合物は、8-OHdGではなく、HELとHNEの上昇と関係がありました。PFR代謝物の上位2つの組み合わせは、酸化ストレスバイオマーカーの濃度上昇とは関係がありませんでした。                              
  相関関係:密接な関わり合いがあり、一方が変化すれば他方も変化するような関係

この研究で得られたこと

今回の研究では、PFR代謝物の混合物が、尿中の酸化ストレスバイオマーカーを調整する役割を担っている可能性が示されました。しかし、PFR曝露による酸化ストレスバイオマーカーへの影響は、実験的にも、また疫学的にも、十分な証拠が得られておりません。今回の研究結果を確認するには、さらなる研究が必要であることを示す結果となりました。

出典:
Yu Ait Bamai, Michiel Bastiaensen, Atsuko Araki, et al., Multiple exposures to organophosphate flame retardants alter urinary oxidative stress biomarkers among children: The Hokkaido Study. Environment International 131 (2019) 105003.

(2020 IF: 9.621)