妊娠中の有機フッ素化合物の血中濃度と乳幼児のアレルギー症状および感染症との関連

この研究の背景

残留性有機汚染物質の一つである有機フッ素化合物のPFOSとPFOAは、その親水性と疎水性から様々な製品に広く使われています。ヒトの体内に蓄積されたこれらの化合物が半分の量になるまでにかかる時間は、3.8年(PFOS)から5.4年(PFOA)と報告されており、健康への影響が懸念されています。これらが体内に取り込まれる主な経路は、飲料水、動物の赤肉や脂肪、食品の包装資材、ハウスダストなどです。PFOSとPFOAは、胎盤を通過して胎児に移行することが分かっています。

動物実験の結果では、PFOSやPFOAをマウスに与えると、免疫機能が抑制され、病原体と戦う抗体(IgM)の産生が低下し、アレルギーの指標の一種であるIgEの量が増えることが報告されています。

この研究の目的

母親の血液中のPFOSとPFOA濃度と、生後18ヵ月間の乳幼児が罹るアレルギー症状や感染症との関連を調査しました。臍帯血中のIgE濃度との関連についても検討しました。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年~2005年に札幌市内の病院を受診した妊婦を対象に、質問紙調査と採血を行い、出産時に臍帯血を採取しました。
  2. 妊婦の血液中のPFOSとPFOA濃度を測定し、臍帯血中のIgE濃度を測定しました。
  3. 生後18ヵ月目に自記式調査票を送付し、回答を得ました。
  4. 母親のPFOSとPFOA濃度と臍帯血IgE濃度との関連は231組の母子、乳幼児のアレルギー症状や感染症との関連については343組の母子を対象に解析しました。
この研究が明らかにしたこと

PFOSは全ての対象者から検出されましたが、PFOAは22名の対象者で検出されませんでした。母親のPFOA濃度が高いと女児の臍帯血IgE値が低下していました。しかし、男児ではこの様な関連を認めませんでした。生後18ヵ月間の乳幼児が罹るアレルギー症状と感染症は、食物アレルギー、湿疹、喘鳴、中耳炎を対象に調べました。しかし、これらの症状と母親のPFOSとPFOAの濃度との間に関連は認められませんでした。

 

この研究で得られたこと

母親のPFOA濃度が高いと女児の臍帯血IgE濃度が低下することが分かりました。しかし、生後18ヵ月間の乳幼児のアレルギー症状や感染症との関連は認めませんでした。今後は、幼児期から学童期までのアレルギー疾患や感染症への影響について、継続的に評価していくことが必要です。

 

出典:
Emiko Okada, Seiko Sasaki, Yasuaki Saijo, et. al., Prenatal exposure to perfluorinated chemicals and relationship with allergies and infectious diseases in infants, Environmental Research 112(2012) 118–125.

(2020 IF: 6.498)