妊婦がビスフェノールA曝されると、男の子と女の子のDNAメチル(エピゲノム)違いが見られました

この研究の背景

ビスフェノールA(BPA)は、プラスチック、食品容器など、消費者製品に広く使用されている化学物質ことで、内分泌かく乱化学物質(EDC)としても知られています。EDCは、ホルモンを介した機能障害に関連していると言われているため、妊娠中のお母さんがBPAに曝されると、赤ちゃんのホルモンバランスが乱れるなど、さまざまな健康上の問題が生じると言われています。しかし、お母さんの尿中BPAと、臍帯血中のDNAメチル化(エピゲノムとも言う。遺伝子の発現に関わるスイッチの1つ)との関係を調べた研究は、ドイツで行われた1件のみで、しかも性別による影響は明らかにされていません。

この研究の目的

北海道スタディでは、日本人を対象に、妊娠中のお母さんのBPA曝露に関係した臍帯血中のDNAメチル化の変化を調べました。また、BPA曝露に関係したDNAメチル化の分析結果をもとに、性別による違いの有無を調べるための解析も行いました。

どのようにして調べたの?
  1. 臍帯血から、BPAの濃度を測定しました。
  2. 臍帯血中のDNAメチル化を測定しました。
  3. 上記1と2のデータがすべて揃う277組の母児ペアのデータ解析を行いました。
この研究が明らかにしたこと

全サンプル中で、臍帯血からBPAが検出された割合は68.6%、BPA濃度の中央値が0.050ng/mLでした。新生児と女の子では、ほとんどにおいてDNAのメチル化が低い(低メチル化)状態でした。一方、男の子では、DNAのメチル化が高い(高メチル化)状態でした。DNAメチル化に大きな変動が見られた部位数は、男の子で28部位、女の子で16部位でした。男の子では、22部位の高メチル化と6部位の低メチル化が、女の子では、16部位の低メチル化が、それぞれBPA濃度と関連していました。新生児では、そうした部位が見られませんでした。遺伝子オントロジー解析(各遺伝子群ごとに解析する手法)では、女の子で4つの領域(細胞接着に関する経路とカルシウムイオン結合に関する経路など)にある遺伝子がBPA濃度と関連していました。一方、男のではBPA濃度と関連する経路は該当がありませんでした。

この研究で得られたこと

今回の研究では、たとえ少量であっても、BPA曝露が出生時のDNAメチル化に与える影響には、男の子と女の子に違いがあることがわかりました。男の子と女の子では、BPA曝露に対する感受性に違いがあるのかもしれません。今後は、この研究成果の裏付けと、男の子あるいは女の子特有の健康への悪影響について調べる必要性があることを示す結果となりました。

出典:
Ryu Miura, Atsuko Araki, Machiko Minatoya, et al., An epigenome-wide analysis of cord blood DNA methylation reveals sex-specific effect of exposure to bisphenol A. Scientific Reports (2019) 9:12369.

(2020 IF: 4.380)