妊婦の喫煙はおなかの子どもに影響するの?

この研究の背景

妊娠中のお母さんの喫煙やタバコの煙への曝露は、喘息(ゼーゼーという音)、精神健康面の低下など、おなかの赤ちゃんに悪影響を及ぼすと言われています。これらのメカニズムには、DNAメチル化(遺伝子に印をつけて、遺伝子の働きをコントロールすること)の変化が関与していると考えられていますが、アジア人を対象にした研究はまだ行われていません。

この研究の目的

 北海道スタディでは、お母さんの喫煙が臍帯血中のDNAメチル化にどのような影響を及ぼすのかを調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 妊娠中のお母さんに、食生活、日常生活における化学物質の曝露、喫煙歴、飲酒などに関するアンケートに回答していただきました。
  2. 臍帯血からゲノムDNA(遺伝子情報をすべて保持しているDNA)を抽出し、DNAメチル化を測定しました。
  3. 上記の1と2のデータがすべて揃う247組の母児ペアを解析し、その結果を、バイサルファイトシーケンサー(次世代型シーケンサーによるDNAメチル化の解析)で検証しました。
この研究が明らかにしたこと

247組の母児ペアを3つのグループ(124組の非喫煙者、46組の持続喫煙者、77組の禁煙者)に分類し、さらに、非喫煙者vs.持続喫煙者(比較A)、非喫煙者vs.禁煙者(比較B)、持続喫煙者vs.禁煙者(比較C)に分類しました。0.05未満のFDR(誤検出率)を持つDNAメチル化率に差異が見られた部位(DM)数は、121(比較A)、46(比較B)、99(比較C)でした。比較Aと比較CのDMを比較した結果、CpGサイト(シトシン[C]とグアニン[G]の2塩基配列が多く出現するところ)が9つ共通していました。比較Aと比較Bでは1つだけ共通していました。AHRR遺伝子(cg05575921)、CYP1A1遺伝子(cg05549655)、TRIM36遺伝子(cg07469926)の近いところにあった複数のCpGサイトは、喫煙により変化したもので、妊娠初期に禁煙していれば影響を受けなかったCpGサイトでした。

この研究で得られたこと

この研究では、DNAメチル化と妊娠中の喫煙において、特異的にメチル化が起きていたDNA配列が新たに見つかりました。この点では、現在の知見を補強する結果となりました。しかし、妊娠中の喫煙、DNAメチル化の変化、疾患発症の3つの関係については、大規模コホートによるさらなる研究が必要であることを示す結果となりました。

 

出典:
Kunio Miyake, Akio Kawaguchi, Ryu Miura, et al., Association between DNA methylation in cord blood and maternal smoking: The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health. Scientific Reports (2018) 8:5654.

(2020 IF: 4.380)