妊婦さんの血液中ペルフルオロオクタン酸量と小児の成長遺伝子との間の関係

この研究の背景

ペルフルオロオクタン酸(PFAA)及びその仲間のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)は人工の化合物で、消費財の製造に幅広く使われております。PFAAは胎盤を通過して胎児に移行するため、妊婦さんの血液中PFAAなどが胎児の発育や出生後の長期の健康に影響を与えていることが分っています。
 遺伝子であるDNAのメチル化によって、受精卵の生育が始まり、細胞の分化が起ります。このDNAのメチル化は子孫に遺伝するのですが、環境からの影響も受けます。妊娠中の胎児のDNAメチル化の変化は、出生後の小児の遺伝子の働きに影響を与えます。しかし、PFAAやPFOS、PFOAが子孫の健康に影響を与えるDNAのメチル化に影響を及ぼしているかどうかは、まだ評価されていません。

この研究の目的

妊婦さんの血液中PFAAなどの量とへその緒の血液中の(胎児の成長に影響を与える)遺伝子のメチル化のパターン、並びに出生サイズとの間の関係を調べる事です。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年7月~2005年10月の期間に札幌東豊病院を受診した妊婦さんと、その小児(177組)を研究の対象としました。
  2. 本研究の開始時に、妊婦さんに自己記入式のアンケートに答えてもらい、必要な情報を集めました。
  3. 妊娠24~41週の間に妊婦さんから約40mLの血液を採血し、血液中のPFAA及びPFOS、PFOAの量を測りました。
  4. 出生時にへその緒から血液を採取し、胎児の発育に関係する3種類の遺伝子でのメチル化の程度を測りました。
この研究が明らかにしたこと

お母さんのPFOAの量が増えると、胎児のメチル化した成長遺伝子(IGF2)の量が減ることが分りました。その他の遺伝子とPFOSやPFOAとの間に関係は認められませんでした。IGF2のメチル化の程度は、赤ちゃんの肥満度を示すポンデラル指数と比例していましたが、出生時の体重や身長とは関係していませんでした。お母さんのPFOSの量が増えると、ポンデラル指数が減る(肥満度が下がる)ことが分りました。

 

この研究で得られたこと

お母さんのPFOAによって胎児が汚染されると、胎児の成長遺伝子(IGF2)のメチル化が減る(胎児の生育度合いが下がる)傾向にあることが分りました。IGF2のメチル化が減ることが、ポンデラル指数を減らす(肥満度が下がる)PFOAの作用の約20%を占めていると考えられます。

 

出典:
Sachiko Kobayashi, Kaoru Azumi, Houman Goudarzi, et. al., Effects of prenatal perfluoroalkyl acid exposure on cord blood IGF2/H19 methylation and ponderal index: The Hokkaido Study, Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology (2017) 27, 251–259.

(2020 IF: 5.563)