調査でわかったこと

妊娠中母体の水酸化PCB濃度と母児の甲状腺ホルモンへの影響について

水酸化PCBとはどんな物質?

PCB(ポリ塩化ビフェニル)は分解されにくく蓄積されやすいことから、環境汚染や食物連鎖を通しての人体への影響が心配されています。PCBが体内で水酸化された水酸化PCBは、PCBより水に溶けやすいことから血液中に溶け、PCBより長く体内に残ることが知られています。さらに、PCB等の有害物質はへその緒から胎盤を通ってお母さんから赤ちゃんへ移ることが報告されており、赤ちゃんへの影響が心配されています。また、水酸化PCBはPCBより甲状腺ホルモンに似た構造を持つため、甲状腺ホルモンへの影響が強いと考えられています。

母子間の甲状腺ホルモン移行に着目した調査目的

妊娠中の甲状腺ホルモンは、妊娠の維持と赤ちゃんの成長においてきわめて大切なホルモンです。お腹の中にいる赤ちゃんは自分で十分な量の甲状腺ホルモンをつくることができないため、へその緒を通してお母さんの甲状腺ホルモンを受け取り、成長を続けていきます。そのため、お母さんの甲状腺ホルモンバランスが乱れることは、赤ちゃんの成長に大きな影響を与えます。そこで、私たちは母子間の甲状腺ホルモン移行に着目しながら、母体中の水酸化PCBsがお母さんと赤ちゃんそれぞれの甲状腺ホルモン値へどのような影響を与えるのかを目的として調査をしました。

どのように調査したの?

北海道スタディに参加する222組の母子ペアを対象としました。水酸化PCB濃度は、妊娠中または出産後5日以内に採血した母体血中から、5つの水酸化PCB異性体濃度を測定しました。甲状腺ホルモン値は、お母さんの妊娠初期の血液と出生後4?7日の新生児のかかとから採取した血液から、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(FT4)の2種類を測定しました。

この研究からわかったこと

お母さんの血液中の水酸化PCB濃度が高いと、お母さんおよび赤ちゃん両方のFT4が高くなるという結果が得られました。赤ちゃんのFT4は、お母さんの血液中の水酸化PCBから直接影響をうけたのではなく、水酸化PCBによる影響を受けて高くなったお母さんのFT4がお母さんのTSHを下げ、その影響で赤ちゃんのTSHが下がり、その結果として赤ちゃんのFT4が高くなる「間接的な経路」の可能性が示されました。
甲状腺ホルモンは精神発達に重要な影響を与えるため、今後は高くなったFT4が子どもの発達にどのように影響するのかを引き続き調べていきます。

出典: Itoh S et al.,  Association of Maternal Serum Concentration of Hydroxylated Polychlorinated Biphenyls with Maternal and Neonatal Thyroid Hormones: The Hokkaido Birth Cohort Study  Environmental Research Volume 167, November 2018, Pages 583-590