北海道スタディとは

北海道スタディはコーホート研究

北海道大学環境健康科学研究教育センター
客員研究員 宮下 ちひろ

「環境と子どもの健康に関する研究(北海道スタディ)」は公衆衛生学に基づいた調査・研究をするコーホート研究プロジェクトのひとつです。コーホートとは集団のこと。コーホート研究では、病気の要因と考えられる状況にいた集団といなかった集団に分け、病気の発症率などを比較し要因が与えた影響を調べます。特に日常の環境と病気との関連性はすぐにはわかりにくいため、調査期間を10年20年と長く設け、調査対象者も何百人〜何万人という規模で行います。

北海道スタディの目標は、生後の成長を左右する胎児期に始まり、生後の赤ちゃんが成人するまでの間の病気と環境との関連性を明らかにすることです。

対象者と規模、期間

大きく分けて2つのコーホートについて調査・研究を行なっています。
1つは、札幌市の産科施設のご協力の下、2001年にスタートした「札幌コーホート」で、現在514組の母子に参加いただいています。もう1つは、2002年にスタートした「大規模コーホート」で、北海道全域に分布する37の産科医療機関のご協力を得て、調査に参加してくださる妊婦さんを募り、20,926組の母子に参加いただいています。
2001年の研究開始以来、「北海道スタディ」は20年目を迎えました。現在も多くの皆様のご協力のもと継続しています。

主に化学物質と病気の関係を調査

私たちは日々、食べ物や飲み物、床材や壁材、プラスチック製品など生活環境から、人工的に作り出されたさまざまな化学物質を体内に取り込んでいます。化学物質以外にも、携帯電話の電波などに晒されています。今や誰の体の中にも、微量ながら化学物質というのはほぼ100%検出されるような状況になっており、例えばアマゾンの奥地で、文明と距離を置いた生活をしている集団の中でも化学物質は検出されています。
私たちの研究は、そういった人の体内の微量な化学物質の濃度が、長期的に健康にどのようにどれくらい影響しているのかを明らかにしようとするものです。また同時に、むやみに恐れすぎている化学物質の事象を見つけた場合は、その心配を払拭していくことも目標の一つとしています。
化学物質と一言で言っても何千何万も種類があります。私たちはその中でも人間や動物の生体の中に一度取り込まれると血液や肝臓で脂肪に結び付き、なかなか体の外に出てこない残存期間が比較的長い化学物質を調査対象に含めるようにしています。

北海道スタディの調査項目の特徴は、次の通りです。

  1. 日常生活レベルの環境化学物質による次世代影響
  2. 母体血・さい帯血・尿を保存し、胎児期の曝露(環境化学物質など)を測定
  3. 先天異常、体格、発育、神経行動発達、内分泌ホルモン、免疫(アレルギー)・感染症などの様々な健康・病気に関するリスク評価
  4. 遺伝子多型(化学物質の代謝関連酵素や神経伝達物質など)の疾病感受性遺伝子を考慮したリスクが高い集団(ハイリスク群)特定
  5. エピゲノム解析を通した環境遺伝交互作用やメカニズムの解明

参加者のみなさまに協力いただいていること

参加を承諾していただいた妊婦さんには妊娠中から、そして産後は産まれたお子様とともに、定期的に血液や尿の採取、健康診断、質問票調査などにご協力いただいています。子どもを取り巻く環境と子どもの健康状態について、胎児の時からデータを蓄積・追跡しています。胎児期から調査を開始することで、お母さんのお腹の中にいる時にお母さんの体を介して環境から受けた影響についても調べることができます。

調査開始から約 20 年が経って

北海道スタディで集めているデータは、体内の化学物質の種類と量のほかにも、出生時の体重や身長、発育の様子、アレルギーの有無、内分泌ホルモンの量、遺伝型など、多岐にわたります。これまでに、いくつかの化学物質の曝露がアレルギーになるリスクを高めることや、妊娠中の喫煙が赤ちゃんの出生体重に影響を与えることを明らかにしています。

北海道スタディのこれまでの研究成果は「調査でわかったこと」をご覧ください。

今後の目標・課題

子どもの健康に影響を与えることがわかった環境中の化学物質を、現代の生活から完全に排除することは難しいのが現状です。北海道スタディは、環境が子どもの健康に及ぼす影響を明らかにし、その情報を公開するとともに、誰もが健康に過ごせる社会づくり・環境づくりに提言し貢献していきます。

北海道スタディも 15 年以上経つと調査対象の子どもたちの年齢が上がり、ティーンエイジャーになり成人年齢となる 18 歳にさしかかってきています。子どもだったころは、お母さんの承諾で参加していた子どもたちも、将来的には自分の意思で参加を継続してもらう必要があります。そこで、継続的に参加してもらうために、子どもたちにもこの研究の意義を知ってもらえるよう広報活動にも力を入れていきます。そして、将来、北海道スタディに参加する子どもたちがおとなになり、次世代の子どもが産まれるまで、できるだけ長く参加してもらいたいと願っています。