この研究の背景
臭素系難燃剤が残留性有機汚染物質に指定され、リン酸エステル系難燃剤(PFR)が代替難燃剤として、プラスチック、床ワックス、電子製品などの消費者製品に大量に使用されるようになりました。その一方で、PFRへの暴露と、アレルギー症状、酸化ストレス、甲状腺がんなどの健康への悪影響との関係が報告されています。PFRは、接触や吸引、食事が主な暴露経路と言われてます。そのため、手から口への行動が多い子どもの方が、大人よりもPFRによる影響を受けやすいと考えられています。
この研究の目的
北海道スタディでは、1)7歳の小学生の尿中代謝物の測定を通じPFRへの暴露を評価すること、2)代謝物濃度について2012年から2017年までの時間的および季節的な傾向を調査すること、3)代謝物濃度を上昇させる決定因子を判定すること、を調査しました。
どのようにして調べたの?
- 7歳のお子さまの240症例と160人の対照群が対象となりました。
- お子さまのお母さんに、お子さまの特徴、食習慣、生活場所の特徴に関するアンケートに回答していただきました。
- お子さまの朝の尿サンプルから、13種類のPFR代謝物の濃度を測定しました。
この研究が明らかにしたこと
住まいは、戸建てが大半(70.0%)で、半数以上が機械式換気システムを設置し(55%)、床ワックスを使用していました(68.3%)。4種類の代謝物(BBOEHEP、BCIPHIPP、DPHP、EHPHP)がほぼすべてのサンプルで検出されました。フローリングの床の家に住む子どもは、TBOEP(PFRの1つ)の代謝物濃度で高い値を検出しました。機械式換気システムを使用した全部屋で、5つの代謝物濃度(DPHP、BBOEHEP、BBOEP、EHPHP、5-HO-EHDPHP)が高くなっていました。5つの代謝物濃度(BCIPHIPP、DPHP、BDCIPP、BBOEP、BBOEHEP)は、夏季に高く、冬季に低くなる傾向が見られました。
この研究で得られたこと
今回の研究では、日本の子どもが多種多様なPFR、特にTBOEPに曝されていることがわかりました。さらに、日本においてPFRのヒトへの暴露が増加していることを示す最初の研究となりました。これらの物質について、さらなる研究が必要であることを示す結果となりました。
出典:Michiel Bastiaensena, Yu Ait Bamaib, Atsuko Arakib, et al., Temporal trends and determinants of PFR exposure in the Hokkaido Study. International Journal of Hygiene and Environmental Health 228 (2020) 113523.