この研究の背景
繊維製品、食品包装、家具などの産業で広く使用されているパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)は、非常に持続性のある化学物質群です。代表的なものは、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とパーフルオロオクタン酸(PFOA)です。これらの物質は、環境水中や野生生物中に残留し、ヒトの健康への悪影響が懸念されているため、世界中で規制されています。そのため、まだ規制されていないほかのPFAS類似群(PFNA:ペルフルオロノナン酸やPFDA:パーフルオロデカン酸など)が、消費者製品に多く使用されるようになりました。PFASは、胎盤関門を通過し、お母さんから胎児に移行する可能性や、免疫毒性、免疫調整作用があると言われています。しかし、アレルギーや感染症に対するPFASの悪影響が、アレルギー診断の可能な7歳まで持続するかどうかわかっていません。
この研究の目的
この研究では、北海道スタディで得られた2歳と4歳時の小児アレルギーおよび感染症に対するPFASの影響が、7歳時まで反映されるかどうかを調べました。
どのようにして調べたの?
- 妊娠中のお母さんの血液に含まれる11種類のPFASを測定しました。
- お子さまのお母さんが、お子さまの年齢が7歳になったときに、アレルギーに関するアンケートに回答していただきました。
- 上記1と2のデータがすべて揃う2782組の母児ペアを解析しました。
この研究が明らかにしたこと
感染症とアレルギーの有病率(ある時点の、ある人口集団で、特定の病気にかかっている患者の比率のこと)は、喘鳴(ゼーゼーする呼吸)11.9%、鼻結膜炎11.3%、湿疹21.0%、水痘61.5%、中耳炎55.7%、肺炎30.6%、RSウィルス感染症16.8%でした。お母さんの血中のPFASにおいて、最も多く検出された物質はPFOS、続いてPFOA、PFUnDA(パーフルオロウンデカン酸)、PFNAでした。PFNAとPFDAは、鼻結膜炎と*逆相関し、PFOA、PFUnDA、PFDoDA(パーフルオロドデカン酸)、PFTrDA(パーフルオロトリデカン酸)とPFOSは、湿疹と*逆相関しました。一人っ子の場合、妊娠中にお母さんがPFDAに曝されると、肺炎になるリスクが上昇し、PFOAに曝されると、RSウィルス感染症になるリスクが上昇しました。兄弟がいる子どもでは、妊娠中にお母さんがPFOAに曝されると、肺炎になるリスクが上昇しました。
*逆相関:一方が増えると、他方が減ること
この研究で得られたこと
今回の研究では、PFOS、PFNA、PFUnDA、PFDoDA、PFTrDAは、喘鳴、湿疹、鼻結膜炎のリスク減少に関与する一方で、肺炎、RSウィルス感染症のリスク上昇に関与していました。今回の研究成果および疫学的、実験的研究成果から考えて、PFASには、免役毒性や免疫調節作用がある可能性が示唆されました。しかし、より正確な評価を行うために、さらなる研究が必要であることを示す結果となりました。
出典:Yu Ait Bamai, Houman Goudarzi, Atsuko Araki, et al., Effect of prenatal exposure to per- and polyfluoroalkyl substances on childhood allergies and common infectious diseases in children up to age 7 years: The Hokkaido study on environment and children’s health. Environment International 143 (2020) 105979.