調査でわかったこと

パーフルオロアルキル物質の胎内暴露は、甲状腺ホルモン抗甲状腺抗体に影響を及ぼすの?

この研究の背景

橋本病と呼ばれる慢性甲状腺炎は、甲状腺機能低下症の中でも最も頻度が高いと言われています。橋本病は、抗甲状腺抗体(TA)により甲状腺が攻撃を受け、慢性的に炎症を起こす病気です。PFAS(パーフルオロアルキル物質)は、乳化剤、コーティング剤など、幅広く用いられている化学物質ですが、PFASが妊娠中のお母さんに曝されると、甲状腺ホルモン(TH)が攪乱されることが明らかになっています。しかし、出産前後のお母さんへのPFASの暴露が、TAにどんな影響を及ぼすのかを検討した研究はありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんへのPFASの暴露と、 お母さんの血液中および臍帯血中のTHおよびTAとの関係を調べました。

どのようにして調べたの?

  1. 妊娠中のお母さんの血液から11種類のPFASの濃度を測定しました。
  2. 妊娠中のお母さんの血液と臍帯血から2種類のTA (TPOAbとTgAb:どちらも甲状腺を攻撃してしまう抗体)と3種類のTH(FT3、FT4、TSH:TSHはFT3とFT4の調節機能をもつ甲状腺刺激ホルモンのこと)の濃度を測定しました。
  3. 上記1と2のデータがすべて揃う701組の母児ペアの解析をしました。

この研究が明らかにしたこと

TA陰性群とTA陽性群のお母さんでは、お母さんのFT3とPFASの間に*正相関が見られました。お母さんのPFOA(PFASの1つ)とTPOAbの間に*逆相関が見られました。TA陰性群のお母さんのPFASが、男の子のTSH上昇に関与していましたが、FT3とは*逆相関が見られました。TA陽性群のお母さんのPFASは、男の子のTSHの低下に関与していました。TA陰性群のお母さんのPFASは、女の子のFT3上昇と関与していましたが、TSHとは*逆相関を示しました。TA陽性群のお母さんのPFASと女の子のFT4の間には*逆相関が見られました。TA陰性群のお母さんのPFASと、男の子のTgAbの低下には関連性がみられましたが、TA陽性群のお母さんのPFASと、女の子のTgAbには*正相関が見られました。 

*正相関:一方が増えると、他方も増えること;逆相関:一方が増えると、他方が減ること

この研究で得られたこと

この研究では、PFASの胎内暴露が、たとえ少量でも、THとTAに影響を与え、その結果、甲状腺の攪乱を引き起こす可能性があることがわかりました。また、甲状腺の攪乱に対する影響は、お母さんのTAの濃度によることも示唆されました。今後は、胎児の神経発達を調べるための長期的な追跡調査を行い、胎児期に変化したホルモン濃度を明らかにする必要があることを示す結果となりました。

出典:Sachiko Itoh, Atsuko Araki, Chihiro Miyashita, et al., Association between perfluoroalkyl substance exposure and thyroid hormone/thyroid antibody levels in maternal and cord blood: The Hokkaido Study. Environment International 133 (2019) 105139.