この研究の背景
残留性有機汚染物質とは、自然に分解されにくいため、生態系などを経て食品に取り込まれ、その結果、人間の健康に害を及ぼす物質のことです。それらの1つである有機塩素系農薬(OCP)には、殺虫剤であるジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)などがありますが、そのほとんどの使用が、現在禁止または制限されています。しかし、水や堆積物中から低濃度OCPが依然として検出されており、妊娠中のお母さんが低濃度OCPに暴露された場合の赤ちゃんのホルモンに与える影響は、まだ十分に検討されていません。
この研究の目的
北海道スタディでは、妊娠中のお母さんへの低濃度OCPの暴露と、臍帯血中のステロイドおよび性ホルモンの濃度との関係を調べました。
どのようにして調べたの?
- お母さんの血液からOCPの濃度を測定しました。
- 臍帯血中のステロイドと性ホルモンの濃度を測定しました。
- 上記1と2のデータがすべて揃う232組の母児ペアの解析を行いました。
この研究が明らかにしたこと
お母さんの血液から、29種類のOCPのうち15種類が検出されました。OCPとホルモンとの関係は、女の子よりも男の子の方に明らかでした。男の子では、お母さんの血液中から検出されたクロルデンなど5種類のOCPに対し、7項目のステロイドや性ホルモンに*逆相関が、4項目に*正相関が見られました。別の解析では、上記5種類のOCPに対し、テストステロンに*逆相関が、DHEAに*正相関が見られました。OCP濃度の上昇とともに、エストラジオール/テストステロン比と副腎アンドロゲン/グルココルチコイド比も高くなりましたが、テストステロン/アンドロステンジオン比は低くなりました。性ホルモン結合グロブリンとプロラクチンは、OCPと*逆相関を示しました。女の子では、お母さんの血液中のp,p’-DDDが、デヒドロエピアンドロステロンおよび副腎アンドロゲン/グルココルチコイド比と*逆相関が、コルチゾンと*正相関が見られました。しかし、別の解析では、これらの関連性が見られませんでした。
*正相関:一方が増えると、他方も増えること;*逆相関:一方が増えると、他方が減ること
この研究で得られたこと
今回の研究では、妊娠中のお母さんが低濃度のOCPに曝された場合、男の子のホルモンに影響が現れる結果になりましたが、臨床上の重要性については、現時点で明らかにすることができませんでした。今後、OCP暴露の長期的な影響について調査する必要があることを示す結果となりました。
出典:Atsuko Araki, Chihiro Miyashita, Takahiko Mitsui, et al., Prenatal organochlorine pesticide exposure and the disruption of steroids and reproductive hormones in cord blood: The Hokkaido study. Environment International 110 (2018) 1–13.