この研究の背景
最近10年間の技術の進歩により、ポリ塩化ビフェニール(PCB)の代謝物であるOH-PCBが測定できるようになりました。PCBの殆どは、体内で代謝酵素によりOH-PCBに代謝されます。最近の研究によりますと、一部のOH-PCBはPCBよりも長く体内に留まり、ヒトの血液中に数年間留まっていることもあります。OH-PCBはPCBよりも水に溶けやすいので、胎盤をPCBよりも通過しやすく、したがって胎児にPCBよりも多く移行します。甲状腺ホルモンは胎児や新生児の神経発達に必要なホルモンですが、OH-PCBは甲状腺ホルモンの量を減らす作用があると考えられています。この様に、OH-PCBはPCBよりも多くの影響を胎児や新生児に及ぼすと思われます。
この研究の目的
環境レベルでのOH-PCBにお母さんが汚染されることと、お母さんや新生児の甲状腺ホルモン量との間の関係を調べることです。
どのようにして調べたの?
- 2002年7月~2005年10月の期間中に札幌東豊病院を受診した妊婦さん(妊娠23~35週)とその新生児222組を本研究に組み込みました。
- 研究を始める際に、妊婦さんに自己記入式のアンケートに答えていただきました。
- 第三妊娠期の終わりもしくは出産後5日以内に、妊婦さんから約40mLの血液を採取し、血液中のPCBとOH-PCB、さらに、甲状腺ホルモン(TH)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離甲状腺ホルモン(FT4)の量を測りました。
- 出生後4日~7日の新生児の踵から血液を採取し、PCBとOH-PCB、さらにTHとTSH、FT4の量を測定しました。
この研究が明らかにしたこと
OH-PCBの殆どは4-OHCB187という物質でした。お母さんのOH-PCBの量はお母さんのFT4の量と比例しており、また、お母さんの4-OH-CB187の量はお母さんと新生児の両方のFT4の量と比例してしました。胎児でのOH-PCB とPCBの比は、お母さんの比よりも大きく、胎児により多くのOH-PCB が移行していることが分りました。
この研究で得られたこと
OH-PCBに汚染されたお母さんのFT4が、お母さんと新生児のTSHを介して、間接的に新生児のFT4に影響を与えていると考えられます。新生児の甲状腺に対して、OH-PCBはPCBよりも強く影響を与えていると思われます。お母さんのOH-PCBは甲状腺ホルモンを胎児に運ぶTTRというタンパク質にくっついて、胎児に移行していると考えられます。以上の事から、4-OH-CB187はお母さんと新生児の甲状腺ホルモンのバランスを乱すと考えられます。
出典: Sachiko Itoh, Toshiaki Baba, Motoyuki Yuasa, et. al., Association of maternal serum concentration of hydroxylated polychlorinated biphenyls with maternal and neonatal thyroid hormones: The Hokkaido birth cohort study, Environmental Research 167 (2018) 583–590.