この研究の背景
有機塩素系農薬(OCP)は環境汚染物質で、環境に長時間残存し、食物連鎖を経てヒトや動物の体内に蓄積されます。日本では、1970年代にほとんどのOCPが農薬としての使用を禁止されました。
胎児期のOCP曝露によって細胞間のシグナル伝達やホルモンなどの分泌機能に影響が出ることにより、小児期の神経発達に遅れが出る可能性が指摘されています。
この研究の目的
日本における比較的低レベルのOCPへの胎児期の曝露と生後6ヵ月ないしは18ヵ月の小児での神経発達との間の関連を調べました。
どのようにして調べたの?
- 2002年7月~2005年7月の期間中に札幌東豊病院を受診した妊婦さん514名を対象としました。
- 妊娠第二期の終わりに、妊婦さんに自己記入式のアンケートに答えていただきました。
- 妊婦さんから血液を採取し、血液中の各種OCPの量を測りました。
- 生後6ヵ月(164名)と18ヵ月(115名)の小児に、BSID-IIを使って精神や運動の発達状態を調べる調査を行いました。
この研究が明らかにしたこと
調べた29種類のOCPのうち、15種類の農薬が80%以上の妊婦さんの血液から検出されました。生後6か月では農薬による影響は見られなかったものの、18か月ではcis-HCE**という有機塩素系農薬と子どもの精神発達平均得点との間に関連がみられました。
**cis-HCEは過去にシロアリ駆除剤等として使用されたヘプタクロルという物質の一種です。
この研究で得られたこと
胎児期にcis-HCEにさらされると、生後18か月の精神発達が遅れる可能性が示されました。
ただし、有機塩素系農薬による精神発達への影響は、子どもの成長にともなって消えていくという報告もあります。これらの物質による影響を明らかにするには、学童期以降まで長期間の子どもの発達を見守っていく必要があります。
出典: Keiko Yamazaki, Atsuko Araki, Sonomi Nakajima, et. al., Association between prenatal exposure to organochlorine pesticides and the mental and psychomotor development of infants at ages 6 and 18 months: The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health, NeuroToxicology 69 (2