この研究の背景
PCBやPCDD、PCDFなどのダイオキシン類は環境に広く存在する環境化学物質です。日本人では、摂取するダイオキシン類の90%以上が魚や海産物です。ダイオキシンはAHRというレセプターに作用して、その毒性をヒトに与えています。ダイオキシンはAHRに結合してCYP1A1という酵素を増やします。AHRやCYP1A1の遺伝子に変異があると、妊婦さんの血中ダイオキシン量が増加し、その毒性も強くなります。
私達は、PCDDが妊婦さんの血液中に増えると、赤ちゃんの出生サイズが減ることを報告しています。AHRやCYP1A1、さらにはGSTM1の遺伝子の働きの違いによって、ダイオキシン類への感受性が異なり、ひいては小児の出生サイズに影響を及ぼします。
この研究の目的
妊婦さんのダイオキシンを代謝する酵素の遺伝子での変異の有無と、小児のダイオキシン量及び出生サイズとの間の関係を調べる事です。
どのようにして調べたの?
- 2002年7月~2005年10月の期間に札幌東豊病院を受診した妊婦さん(484名)を研究の対象としました。
- 最終妊娠期に、妊婦さんに自己記入式のアンケートに答えてもらいました。
- 第三妊娠期(356名)あるいは出産時(148名)に妊婦さんから血液を採取し、各種のダイオキシンの量を測りました。
- 採血した妊婦さんの白血球から、AHRやCYP1A1、GSTM1の遺伝子を採取して、変異の有無を調べました。
この研究が明らかにしたこと
小児の出生サイズは、性別と妊娠期間の長さに関係していました。GSTM1の遺伝子がない妊婦さんでは、その遺伝子がある妊婦さんの場合と比較して、ダイオキシンの毒性が10倍になる毎に小児の出生サイズが345g減っていました。
この研究で得られたこと
GSTM1の遺伝子がない妊婦さんの血中ダイオキシン量は、GSTM1の遺伝子のある妊婦さんと違いはありませんでした。出生サイズの減少は妊婦さんの血中ダイオキシン量だけに比例している訳ではなく、血中ダイオキシン量とGSTM1遺伝子の有無の両方に関係していると思われます。ダイオキシンを代謝するGSTM1遺伝子がないと、ダイオキシンの代謝能が損なわれ、ダイオキシンが増えた分だけ出生サイズが減少したと考えられます。
出典: Sumitaka Kobayashi, Fumihiro Sata, Chihiro Miyashita, et. al., Dioxin-metabolizing genes in relation to effects of prenatal dioxin levels and reduced birth size: The Hokkaido study, Reproductive Toxicology 67 (2017) 111–116.