この研究の背景
フタル酸エステルは、ポリ塩化ビニール製のフローリングや建築資材等の家庭用品での可塑剤として広く使われています。フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)は、おもちゃや食品の容器への使用が規制されていますが、フタル酸エステルの中ではDEHPが最も多く使われています。
フタル酸エステルによって、子供の健康が害され、生殖能や神経系、思春期などの発育に対する影響、さらには、肥満などが起ります。また、ハウスダスト中のフタル酸エステルによってアレルギーの発現リスクが増すと考えられています。フタル酸エステルの主要な汚染経路は食物とパーソナルケア製品と考えられていますが、ハウスダストも重要であると言えます。
この研究の目的
6~12歳の小児でのフタル酸エステルの摂取量を推定し、アレルギーとの関連性の可能性を評価することです。
どのようにして調べたの?
- 128家族の184名の小学生を本研究に組み込みました。
- まず、2008年に基本的なアンケート調査を行い、続いて、2009年と2010年の10月と11月に追加のアンケート調査と生活環境の調査を行いました。
- ハウスダストとしては、リビングの床のほこりと、床から35cm以上上にある食器棚や、テレビ、インテリア家具などの表面のほこりを集めました。
- 子供さんからは、親御さんに頼んで、朝の初尿のサンプルを採取していただきました。
- DEHPなど、7種類のフタル酸エステルを測定しました。
この研究が明らかにしたこと
親御さんから報告のあった子供での喘鳴、アレルギー性の鼻炎結膜炎、アトピー性皮膚炎などの発現頻度は、両親のアレルギー頻度よりも多かった。喘鳴は築年数の古い家屋や湿気の多い家屋、タバコの煙の多い家屋に住んでいる子供に多かった。ほこりサンプルの中では、DEHPの量が最も多く、全ての床ほこりサンプルで検出されました。家具などのほこりサンプルでは、DEHPが99.2%、DiNPが100%のサンプルで検出されました。
アレルギー性の鼻炎結膜炎は、床のほこり中のDEHPの量と強い関連性がありました。尿中のDiBPの量が多いと、男子での喘鳴の頻度が減りました。尿中のMECPP(DEHPの代謝物)の量が多いと、男子でのアトピー性皮膚炎の頻度が減りました。
この研究で得られたこと
アレルギーと尿中代謝物から算出したDEPH摂取量との間の関係は、ハウスダストとの関係と逆でした。DiBPやDnBPは抗アレルギー薬などにも含まれているので、逆の結果になったと考えられます。子供のアレルギーが、尿中代謝物ではなく、ほこり中のDEPH量と強い関連性を示した理由は、ほこり中のDEPHが直接、鼻や目の粘膜に作用して免疫が活性化されたためと思われます。
出典: Yu Ait Bamai, Atsuko Araki, Toshio Kawai, et. al., Exposure to phthalates in house dust and associated allergies in children aged 6–12 years, Environment International 96 (2016) 16–23.