この研究の背景
人工的に作られた有機フッ素化合物(PFC)の一種であるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)は、自然界でゆっくりと分解される有機汚染物質で、様々な製品に幅広く使われています。食物連鎖によってヒトの体内に溜まったこれらの化合物が半分の量になるまでにかかる時間は、3.8年(PFOS)から5.4年(PFOA)と言われていて、ヒトの健康に対する影響がつよく懸念されています。これらが体内に取り込まれる主な経路は、飲料水、動物の赤肉や脂肪、食物の包装材料、室内のホコリなどです。PFOSとPFOAは、胎盤を通過して胎児の体内にも影響します。
胎児の発育(特に神経系の発達)には必須脂肪酸や長鎖多価不飽和脂肪酸が必要で、これらは胎盤から供給されています。最近の動物実験によると、PFCが脂質代謝や血糖の維持、甲状腺ホルモンのバランスなどを乱すことが分っています。一方、妊婦の脂肪酸維持におけるPFCの影響は未だ明確ではありません。
この研究の目的
妊婦さんの血液中のPFOSとPFOAの濃度、脂肪酸量及びトリグリセライド量並びに幼児の出生時体重との間の関連性を検討します。
どのようにして調べたの?
- 札幌近郊に在住していて、2002年7月~2005年10月の期間中に札幌東豊病院を受診した妊婦さん(妊娠23~35週)とその幼児306組を対象としました。
- 妊婦さんから研究開始時に約40mLの血液を採取し、PFOSとPFOA並びに9種類の脂肪酸及びトリグリセライドの量を測りました。
- 妊娠中期の終わりに妊婦さんに自己記入式のアンケートに回答してもらいました。
この研究が明らかにしたこと
妊婦さんのPFOS量は、アラキドン酸など5種類の脂肪酸及びトリグリセライドの量と反比例していましたが、PFOA量ではその様な関係はなんら認められませんでした。PFOS量が最も多かった妊婦さんの上位25%から生まれた女児の出生時体重は、PFOS量が最もった少なかった妊婦さん下位25%から生まれた女児よりも186.6g少なかったですが、男児ではその様な関係はなんら認められませんでした。
この研究で得られたこと
有機フッ素化合物の中ではPFOSが脂肪酸を運ぶタンパク質を最も強力に阻害しますが、PFOAでは最も弱いことから、PFOAでは明確な関連性が認められなかったと考えられます。脂肪酸とトリグリセライドは胎児のエネルギー源になりますので、胎児の発育期での脂肪酸類の減少によって女児での出生時の体重が減少したものと考えられます。
出典: Reiko Kishi, Tamie Nakajima, Houman Goudarzi, et. al., The Association of Prenatal Exposure to Perfluorinated Chemicals with Maternal Essential and Long-Chain Polyunsaturated Fatty Acids during Pregnancy and the Birth Weight of Their Offspring: The Hokkaido Study, Environ Health Perspect. 2015 Oct;123(10):1038-45.