社会経済要因

概要

北海道大学環境健康科学研究教育センター
特任講師 田村 菜穂美

日本の子どもの相対貧困率は、厚生労働省が3年ごとに発表する国民生活基礎調査によると、2018年時点で14.0%でした。日本では子どもの約7人に1人が貧困状態にあるという計算になります。これは、経済協力開発機構(OECD)に加盟する他の先進国に比べて高い割合です。国内外の研究では、子どものいる世帯の経済状況や社会階層などの社会経済要因が、子どもの健康に影響を及ぼすことが報告されてきました。

北海道スタディでは子どもの健康を守る上で社会経済要因は大切な環境要因の一部として考え、研究の初期より参加者さんからデータを集めてきました。その結果、社会経済要因が、産まれてくる赤ちゃんの健康状態に及ぼす影響について、いくつかのことがわかってきました。

調査方法と調査結果

社会経済要因については質問票を使って、妊娠している参加者さんのご家庭の世帯年収やお父さん・お母さんの教育歴などの情報を集めました。

生まれる赤ちゃんの健康を左右する大きな要素として、在胎週数と出生体重があります。今回注目したのは、在胎週数が37週未満である早産、出生体重が1,500g未満である極低出生体重(Very Low Birth Weight; VLBW)、在胎週数が十分であるにも関わらずそれに見合った体重に達していない(在胎週数別体格基準曲線の下位10%)というSmall for Gestational Age(SGA)の3つで、これらの情報は医療機関の協力を得て集めました。社会経済要因と赤ちゃんが早産・極低出生体重・SGAで産まれてくることの関係性を調べました。

社会経済要因は間接的にSGAのリスクとなっている可能性がある

早産、極低出生体重、SGAのリスクを高める要因に何があるかを調べたところ、早産や極低出生体重には、ご参加のお父さん・お母さんの妊娠時の年齢や、お母さんの妊娠前のBMIが影響していることがわかりました。一方でSGAのリスクには、妊娠前のBMI(ボディマス指数:肥満度を表す指数)に加えて、社会経済要因が関係していることがわかりました。

具体的には、お母さんが高卒である場合に比べて、大卒以上である場合の方が、SGAのリスクが低い傾向がみられたのです。私たちは、これは教育歴が赤ちゃんの健康に直接影響を及ぼしたのではなく、他の要因を介して間接的に影響を及ぼしているのではないかと考えました。

複数の解析の結果から、生まれてくる赤ちゃんの健康にはお母さんの喫煙やBMIが関係していることが見えてきました。まず、教育歴が短いなど社会的、経済的に不利な立場にある人たちは喫煙率が高い傾向があるということ。そして、喫煙者には、妊娠前のBMIが低い人が多いという関係が見られました。これらの結果から、社会経済的に不利な立場にある人から生まれる子どもは、妊娠中のお母さんの喫煙や、お母さんのBMIが低いことを通して、SGAとなりやすい可能性が示されました。

今後の研究課題

出生時の赤ちゃんについてだけでなく、今後はお子さんの成長や健康に及ぼす影響についても追跡してデータの分析を続けていきます。

社会経済要因と健康との関係は、暮らしが苦しいために健康が損なわれる場合だけではなく、健康が損なわれたために暮らしが苦しくなるなど、お互いに原因や結果となっていると考えられます。2つの複雑な関係を解きほぐすことで、どんな人でも健康に過ごすためのヒントを見つけることできる可能性があります。貧困や教育は解決に時間のかかる問題ですが、みんなが健康な生活を送れる環境をつくるために、私たちの研究を活かしていきたいと考えています。

参考文献

キーワード
貧困、社会経済要因、世帯年収、教育歴、出生体重