環境と健康ひろば
北海道スタディ

2015年6月1日

胎児期ダイオキシン類曝露が乳幼児のアレルギーおよび感染症リスクに与える影響

【背景と目的】

ダイオキシン類は動物やヒト組織から広く検出される難分解性の環境化学物質です。これらの化学物質は胎盤を通過し,胎児は子宮内で曝露注1を受けます。胎児は化学物質に脆弱で,胎児期曝露が出生後の次世代健康に与える影響が懸念されています(Toft 2004)。ですが、母乳中のダイオキシン類濃度と血中免疫成分との関連は認められず(Kaneko 2006),一貫した結果が得られていませんでした。本研究はダイオキシン類の胎児期曝露が生後18カ月時のアレルギー・感染症リスクに与える影響を検討しました。

 

【対象と方法】

対象者は、「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ(Hokkaido Study on Environment and Children’s Health)」に参加している、2002年7月から2005年10月の期間に札幌市の一産科医療機関を受診した妊娠23週~35週の妊婦でインフォームドコンセント注2の得られた母児514組です。自記式調査票により妊婦とその配偶者から,既往歴,教育歴,世帯収入,ライフスタイルなどを,医療診療録から母児の分娩情報,児の出生時所見を,また生後18カ月時の追跡調査票から乳幼児390名の受動喫煙,母乳期間,アレルギー・感染症発症などの情報を収集しました。妊娠中期~後期に母親から採血し,高分解能ガスクロマトグラフィー・高分解能マススペクトメトリーで426名の母体血中ダイオキシン類を測定しました。


プレゼンテーション1
 

【結果】367名の母児について、母体血中ダイオキシン類濃度が高くなるほど生後18か月児の感染症(中耳炎)発症リスクが増加し、特に男児でより強い関連が認められました。一方で、ダイオキシン類とアレルギー発症リスクの間に明確な関連は認められませんでした。

 

【考察】本研究から,ダイオキシン類の胎児期曝露は免疫系に影響を与え,乳幼児の感染症(中耳炎)発症リスクを特に男児で増加させ,この影響にはPCDFの異性体である2,3,4,7,8-PeCDFが最も関与する可能性が示されました。よって,免疫機能が発達しアレルギー症状の診断が明確になる学童期まで追跡調査する必要があると考えられます。

 

【注1】 曝露:有害物質や病原菌などにさらされること。食品や水などを介した経口的なもの、呼吸によるもの、皮膚を通じた経皮などの経路がある。

【注2】インフォームドコンセント:十分な説明を受けた上での同意

【発表論文名】

胎児期ダイオキシン類曝露が乳幼児のアレルギーおよび感染症リスクに与える影響

Effects of prenatal exposure to dioxin-like compounds on allergies and infections during infancy

 

宮下ちひろ12,佐々木成子,西條泰明3,鷲野考揚,岡田恵美子,小林澄貴1, 小西香苗,梶原淳睦4,戸髙尊5,岸玲子2

北海道大学大学院医学研究科公衆衛生学分野,2北海道大学環境健康科学研究教育センター,3旭川医科大学医学部医学科地域保健疫学分野,4福岡県保健環境研究所,5九州大学大学院医学研究院皮膚科学分野

掲載雑誌:Environmental Research, 111(4):551-558, 2011.

 

 

2015年6月1日 更新 キーワード:

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