環境と健康ひろば
北海道スタディ

2013年9月6日

甲状腺ホルモンと環境物質

【研究目的】

甲状腺ホルモンは胎児の成長に欠かせないホルモンである。胎児の甲状腺が発達していない妊娠初期には、胎児は母親の甲状腺ホルモンに依存している。過去の研究では妊娠期の軽度甲状腺ホルモン低値は胎児の神経発達を妨げるという結果が出ている(de Escobar GM et al. 2004; Berbel P et al. 2009)。また、妊娠中の甲状腺機能低下症は、子癇前症(妊娠中毒症)、流産、早産、子宮内胎児発育遅延などのリスクが高まる(Millar et al. 1994, Lazarus 2005)。よって、妊婦の妊娠初期甲状腺ホルモン値異常は妊婦の健康と胎児の発育に影響を与える。

近年、ダイオキシン、PCB、PFOSやPFOAなどの残留性有機汚染物質(POPs)は、体内の甲状腺ホルモン量を一定に保つ体内恒常性機構を破壊すると言われており、また、これらの物質は母親の血中から胎盤を通過して胎児へ移行し、母親のみならず胎児の甲状腺ホルモン値にも影響を与えると考えられている。

これまでの動物実験では、環境物質の血中濃度が高いとT3、T4の甲状腺ホルモン値が低下するが、甲状腺ホルモンの分泌を促す甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値は変化せず、T3、T4が低値のままであり、甲状腺ホルモンの恒常性が破壊されるという結果が出ている(Thibodeaux et al. 2003; Lau et al. 2003; Luebker et al 2005)。人間においては、環境物質と甲状腺ホルモン値の変化に関連があるという研究がある一方、まったく関連がみられないという研究もあり、未だ一致した結論は得られていない。また、各国において環境物質の濃度が異なることから、環境物質が低濃度である北海道での研究が必要とされる。

我々の研究では、妊娠中において環境中に存在する上記物質の低濃度曝露が妊婦と胎児のTSHとフリーT4にどのような影響を与えるのかを調べることを目的としている。

【これまでの研究結果 (発表論文より)】

<PCDDs/PCDFsとダイオキシン様PCB>

妊婦体内血中のダイオキシン様化合物の増加は、男児の血中FT4の増加と関連があった。

<PCB>

AhRの遺伝子型で階層化した場合、Arg-Lysグループでは、PCBと非ダイオキシン様PCBが増加すると、妊婦のFT4値が低下していた。また個々のPCB異性体においても甲状腺ホルモン値の変化と関連がみられるものがあった。

<PFOSとPFOA>

妊婦血中PFOSが増加すると、妊婦のTSH値は低下し、男児のTSHは増加した (Table参照)。PFOAと甲状腺ホルモン値に明らかな関連はみられなかった。
環境物質の濃度が低濃度であっても、妊婦およびその赤ちゃんの甲状腺ホルモン値へ影響がみられた。
過去の動物による研究とは異なる結果が出たものもあるが、動物と人間とは環境物質の代謝も異なるため、比較が困難だと言える。

1-3_表1
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【今後の研究】

過去の動物実験で、発達期の甲状腺ホルモン低下は知能低下や認知障害を招くとの結果がある(G.W.Anderson et al. 2003, S. Darbra et al. 2004)。今後は、私たちの研究で明らかになった環境物質が引き起こす甲状腺ホルモン値異常が、子どもの発達にどのような影響があるかをさらに研究していく予定である。

2013年9月6日 更新 キーワード:, , ,

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