環境と健康ひろば
環境省エコチル調査

2013年9月20日

環境省「エコチル調査」に関する意識調査と広報活動の課題

[目的]

環境省「エコチル調査」は、全国10万人の妊婦とそのパートナーの協力を得て、環境、特に化学物質の健康への影響を明らかにする全国プロジェクトです。北海道大学に事務局を設け、札幌医科大学、旭川医科大学、日本赤十字北海道看護大学の4大学が連携して調査を進めています。2011年1月の調査開始から3年間で、札幌市北区・豊平区、旭川市、北見市北見自治区(旧北見市)・置戸町・訓子府町・津別町・美幌町にお住いの9000人の妊婦さんの登録を目標としています。

図1エコチル調査の実施体制

 

図2エコチル調査の流れ

 

図3北海道ユニットセンターのリクルート

 

今後の広報活動を行う際の課題について検討することを目的に、エコチル調査に対する一般の北海道民の意識調査を実施しました。

 

[方法]

北海道新聞社広告局が主体となり、北海道新聞情報研究所が実施しました。Doshinネット・インターネットモニター登録者に、2012年3月13〜18日と2012年4月11〜15日の計2回、各回850人に協力を依頼しました。調査では、WEBアンケートサイトのアドレスを一斉送信し回答を受け付けました。

 

[結果]

◆1回目

表1対象者の属性

 

表2意識調査1回目集計「エコチル調査」の認知、関心、賛同、参加意欲

 

表3意識調査2回目集計「エコチル調査」の認知、関心、賛同、参加意欲

 

表4意識調査2回目「エコチル調査」の認知の違いによる意識

 

[考察]

1.意識調査の対象集団について

今回アンケートに協力した参加者はDoshinネットモニターへの登録者で、年齢・性、居住地については北海道の構成比に基づいて抽出されており、北海道民を代表するよう工夫されています。同時に「北海道新聞を購読している」「インターネットにアクセスできる環境にある」等の偏りがある集団です。さらに、参加者は積極的にアンケートに答えることから「自己意識表示に強い関心がある」「情報に敏感であり、新商品や新サービスに高い関心を持つ」等の「先進的な」層であること予測さます。従って、調査結果は一般的な北海道民の「エコチル調査」への意識を過大評価する可能性があります。

 

2.1回目調査の結果

1回目は、WEBアンケート開始日の北海道新聞朝刊に掲載された「エコチル調査」の広告を閲覧しながら、調査の認知、理解、関心、賛同、参加意欲、および広告を見ての行動についての意識調査を実施しました。北海道新聞社広告局が発表している予測注目率が31.1%に対し、「確かに見た」の45.1%は予測よりも多くの読者の目にとまったといえます。また、北海道捕新聞朝刊全道版の発行部数から計算すると、広告を「確かに見た」人数は約111万3千人、「確かに見た+見たような気がする」人数は約175万8千人と推定されます。

広告閲覧以前エコチル調査の認知度は14.4%でした。中でも女性や30代に認知度が高く、これはエコチル調査の対象となりうる集団では、友人・知人に「エコチル調査」に実際に参加している可能性があり、「エコチル調査」について見聞きする可能性が高かったと考えられます。同様の理由で「エコチル調査」対象地域である札幌版や旭川・北見版での認知が対象地域外である函館版や釧路版よりも高かったといえるでしょう。一方、63.3%の読者が広告掲載により「エコチル調査」について知ることが可能となり、72.6%の読者が「エコチル調査」について「非常によく理解できた・まあ理解できた」と回答したことから、新聞広告は「エコチル調査」の認知や理解度の向上に一定の効果があったと言えます。「エコチル調査」への関心や賛同、もしも対象者だと仮定した場合の参加意欲が男性よりも女性に多く、20−30代に多い点も、自分が当事者となりうる可能性があることで、「エコチル調査」への意識がより高くなると考えられます。こうした結果から、広告を掲載することは、「エコチル調査」についてもっと良く知りたい、あるいはこのような広告企画をまた見たいと思う、など意識が向上するという点でも、意義があったと言えるでしょう。

一方で、個別の意見では調査に否定的な意見もあり、特に「対象でないから関心をもてない」「対象地域ではないので関係ない」「地域からはずれているので興味がない」といったコメントが目立ちました。新聞広告のような、むしろ調査対象とならない多くの読者層へ働きかける性質を持ったメディアを使って「エコチル調査」に対する意識向上を目指すためには、記載内容は調査の対象者や対象地域といった限定された情報よりもむしろ、調査の背景や意義などを示すことが重要であると感じました。

 

3.2回目調査の結果

1回目の意識調査(2012年3月13日)以降、当該新聞広告をはじめラジオやテレビスポットCM、テレビやラジオ情報番組での「エコチル調査」PR、地域情報雑誌やフリーペーパーへの広告掲載、札幌市交通局地下鉄駅ポスター掲示などの多様な広報活動を集中して実施しました。その結果、「エコチル調査」の認知度は1回目の14.4%から30.9%へと向上しました。もともと男性と比べて認知度が高かった女性のみに限ると認知度は16.2%から37.7%と向上し、特に20代では10.5%から51.5%と大幅に向上するという結果になりました。「エコチル調査」を知るきっかけとしては新聞およびテレビの影響がそれぞれ60.3%、41.6%とマスメディアの影響は大きく、特に50歳以上では新聞が80.0%以上を占めるなど、大きな影響があることがわかりました。

一方20代では交通広告が14.7%、40代ではインターネットが20.0%と多いなど、年代ごとの生活スタイルや活動様式による違いがあることから、様々な異なる媒体を用いることで複合的に「エコチル調査」の認知向上が図れるといえるでしょう。

「エコチル調査」への賛同や関心についてのポイント自体は1回目と2回目の意識調査で大きな差はありませんでしたが、20代だけでみると「とても関心がある、およびやや関心がある」が55.2%から68.2%と増加しました。また、「エコチル調査」に「大いに賛同する」が60歳以上で44.9%と高くなったことは、自分たちの娘・息子が調査対象となる世代であったからではないかと考えられます。

北海道ユニットセンターでは、「エコチル調査」への参加同意率は70%程度です。今回の意識調査では、自分が対象者であると仮定した場合の参加意欲は1回目69.8%、2回目67.8%と、実際の同意率とほぼ一致しました。また、参加意欲は札幌版(1回目64.2%、2回目68.9%)よりも旭川・北見版(1回目76.0%、2回目75.0%)の方が高いことから、今後の旭川地区および北見地区の参加者数増に期待しています。

「エコチル調査について内容も知っている」群では、「エコチル調査」への『賛同』、『関心』および『参加意欲』の全てにおいて、85%以上の数値が得られ、今後のエコチル調査への意識向上を目指す為には、まずは第一段階として「エコチル調査」について知ってもらうことの重要性が明らかになりました。さらに「エコチル調査」の内容を知っている、と答えた方々からは、「調査の進捗状況について知りたい」「調査参加者の声が聞きたい」などの要望が多く、得られた成果を講演会の開催などにより開示していくことが、エコチル調査へ関心を保つための今後の広報活動の課題といえるでしょう。

 

【原著論文】

荒木敦子, 尾西奈江, 中瀬督久, 伊藤善也, 西條泰明, 池野多美子, 安住薫, 土川陽子, 宮下ちひろ, 伊藤佐智子, 岸玲子, エコチル調査北海道ユニットセンター事務局; 北海道における環境省「エコチル調査」に関する意識調査と広報活動の課題. 北海道公衆衛生学雑誌. 26 (2):125-132, 2012.

2013年9月20日 更新 

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