環境と健康ひろば
室内空気質と健康

2014年8月29日

札幌市児童の喘息と自宅の暖房器具の排気管および機械換気との関連

【研究の背景と目的】

 日本をはじめ、海外でも過去20年間で児童喘息の有病率が増えています。様々な疫学研究によって、子どもたちをとりまく室内環境が、喘息発症の大きい要因となっていることがわかってきました。(Peat, 1996)。

 その中でも、固体燃料や生物燃料の暖房による室内空気汚染が児童喘息のリスクになること(Desai et al, 2004)、また、暖房に排気管を使用すると、児童の喘息は減少すること、が報告されています(Howden-Chapman et al、2008)。その一方、機械換気は室内空気汚染物を排出する一つの方法ではありますが、機械換気の有無・暖房の燃料・排気管の有無を組み合わせて、子どもの喘息との関連を検討した研究はありませんでした。

 そこで、本研究では、小学生を対象とし、暖房の燃料・排気管の有無・機械換気の有無と、喘息症状との関連を明らかにすることを目的に調査を行いました。

 

【研究方法】

対 象 者:札幌市内公立小学校12校の1-6年生6393名(回収率69.5%=4445人、うち
      未記入回答を除き、60.6%(3874人)の回答を分析)

調査の時期:2008年11月ー2009年2月

喘息の評価:ISAAC(he International Study of Asthma and Allergies in Childhood)
      の調査票

調 査 票:小学生の基礎情報=性別、学年、親のアレルギー既往歴など
      室内環境要因=暖房の燃料の種類と排気管の有無、居間や寝室の機械換気の
      有無、ダンプネス*など

統計解析 :カイ二乗検定、ロジスティクス回帰分析

調整因子 :性別、学年、学校、両親のアレルギー既往、幹線道路沿いの居住(200m以内)
      カーペットの使用、室内喫煙者の有無、ダンプネス*の有無

*ダンプネスとは、室内の局所の湿気のこと。
 目に見えるカビ、カビ臭、水漏れと結露の項目のうちいずれかの項目に一つでも
 該当したものを“ダンプネス有り”とした。

【結果】

 欠損データを除外した3874人のデータを分析しました。喘息症状がある児童は12.8%でした。喘息症状のリスクは、電気の暖房器具を使用している場合と比較して、ガスや石油などの暖房器具で排気管(煙突)はあるが機械換気はない場合に1.62倍、排気管はないが機械換気はある場合は1.77倍、排気管も機械換気もない場合は2.23倍高くなりました。

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図1 暖房と機械換気との組み合わせと喘息の関連

 

 これまでに喘息のリスクをあげることが知られているダンプネスの有無で層別したところ、ダンプネスがあってもなくても電気の暖房器具を使用している場合と比較して、排気管がない場合、機械換気がない場合には喘息のリスクをあげることがわかりました。

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 図2 ダンプネスで層別した暖房燃料、排気、および強制換気の組み合わせと喘息症状の関連

【考察】

 電気の暖房器具と比較して、ガスや石油の暖房器具を使用した場合に喘息のリスクが高くなりました。その理由としては、燃料を燃焼することにより放出される二酸化炭素(NO2)、二酸化硫黄(SO2)、および粒子状物質(PM)などが喘息症状の要因となっていることが考えられます。さらに、排気管がない暖房器具を使用する場合、または暖房を使用している時に機械換気をしないことも児童の喘息症状に大きな影響がありました。したがって、ガスや石油等の暖房器具に排気管がない場合や機械換気がない場合には、児童の喘息に影響する可能性について十分注意することが必要です。

 

【終わりに】

 これらの結果から、北海道は冬が寒く、住宅の気密性が高いため、喘息予防のためには、電気以外の石油やガスを燃焼させる暖房を使う場合、特に排気管がない家では、十分に換気に注意が必要であると考えられます。

 

【発表論文名】

Cong S., Araki A., Ukawa S., Ait Bamai Y., Tajima S., Kanazawa A., Yuasa M., Tamakoshi A., Kishi R.; Association of Mechanical Ventilation and Flue Use in Heaters With Asthma Symptoms in Japanese Schoolchildren: A Cross-Sectional Study in Sapporo, Japan. J Epidemiol. 24(3):230-238, 2014.

2014年8月29日 更新 キーワード:, ,

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