環境と健康ひろば
北海道スタディ

2013年9月6日

妊婦の受動喫煙曝露が胎児発育に及ぼす影響

【研究目的】

妊娠中の母親本人の喫煙は前置胎盤,胎盤剥離,子宮外妊娠,流早産などの高リスク要因とされているが,受動喫煙による影響はまだ明らかではない。喫煙の曝露評価には,質問紙調査法や尿,血液,唾液,毛髪など生体試料のコチニン濃度を測定するなどいろいろな方法がある。しかし,質問紙調査から喫煙状況を評価する場合は,喫煙者は喫煙を正確に報告しない,また,非喫煙者では受動喫煙を正確に思い出せないなどの限界があるため(Windham et al., 2000; Fantuzzi et al., 2007; Jaddoe et al., 2008; Lindqvist et al.,2002; McDonald et al., 2005; Chiu et al., 2008),質問紙調査による喫煙や受動喫煙の妥当性を評価するためにバイオマーカーを用いる方法が導入された(Lindqvist et al.,2002; McDonald et al., 2005; Chiu et al., 2008)。コチニンはニコチンの代表的な中間代謝産物で,たばこ煙曝露のバイオマーカーとして用いられている(Al-Delaimy et al., 2000; Etter et al., 2000; George et al., 2006; Man et al., 2009; Benowitz et al., 2009)。生物学的半減期は約17時間と割合長く,ニコチンよりも感度と特異度が高いとされている(Benowitz, 1996)。

本研究では,コチニン濃度測定のために妊娠後期に採血した母体血漿25μLを高感度ELISA法(検出限界値0.12ng/mL)で測定した。検出限界値以下の場合には,検出限界値の半値(0.06ng/mL)を代入した。出生時体体格をアウトカム指標として,非喫煙妊婦の受動喫煙曝露との関連を検討した。

【研究結果】

まず,受動喫煙に係わる要因とコチニン濃度との関係を検討すると,「配偶者の1日当たりの喫煙本数」,「同居する喫煙者数」,「1週間当たりの受動喫煙頻度」が増えるほど,非喫煙者の妊婦のコチニン濃度が有意に増加し(p<0.01),喫煙習慣のない妊婦においても,配偶者や自宅の喫煙状況が重要であることが示唆された (図1)。

図1母体血漿中コチニン濃度と受動喫煙に関わる要因との関連

 

次に,妊婦の受動喫煙が出生時体格に及ぼす影響について,非喫煙妊婦の母体血漿中コチニン濃度を4群(Q1:<0.16ng/mL, Q2:0.16 – 0.33 ng/mL, Q3:0.34 – 0.80 ng/mL ,Q4:>0.80ng/mL)に分類して検討したところ,第1四分位群(<0.16ng/mL) に対して,第4四分位群(>0.80ng/mL) の出生時体重は61.4g(p=0.002),出生時身長は0.6cm(p=0.002),出生時頭囲は0.6cm(p=0.007)有意に低下した。また,男女別でみると,男児では,出生時体重が70.0g(p=0.012),出生時頭囲が0.5cm(p=0.037)と有意に低下し,女児では,出生時身長が0.8cm(p=0.011)有意に低下したことから,妊婦本人の喫煙だけでなく,受動喫煙でも出生時体重が低下することが示唆された(表1)。

 

表1 母体血漿中コチニン濃度と出生時体格との関連(N = 2972)

表1母体血漿中コチニン濃度と出生時体格との関連

 

【考察】

わが国では欧米諸国と比較して,いまだ男性や子育て世代となる若い女性の喫煙率が高いことが報告されている。本研究では,受動喫煙曝露の客観的指標として,血漿中コニチン濃度を測定し,妊娠期の能動喫煙のみならず,受動喫煙が出生時体格を低下させることを明らかにした。今後は,環境遺伝子交互作用についても検討する。

 

【原著論文】

Sasaki S., Braimoh T. S., Yila T. A., Yoshioka E., Kishi R.; Self-reported tobacco smoke exposure and plasma cotinine levels during pregnancy – A validation study in Northern Japan. Sci Total Environ. 412-413 114-118, 2011.

 

2013年9月6日 更新 キーワード:, ,

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