環境と健康ひろば
室内空気質と健康

2013年9月20日

ハウスダスト中フタル酸エステルと住環境との関連

【研究の背景と目的】

フタル酸エステルとは、ポリ塩化ビニル(PVC)やプラスチックを柔らかくするために添加される合成化学物質です。食品容器、子どもの玩具、家具、電気ケーブル、ビニル製の床材や壁紙、合皮などのほか、塗料、接着剤、化粧品、ボディクリーム、香料などにも含まれています。そのため、私たちの生活はフタル酸エステルに囲まれていると言っても過言ではありません。

プラスチック製品は私たちの生活を非常に便利に快適にしてくれましたが、その一方で、近年、フタル酸エステルによる生殖や、発達、アレルギーへの影響が問題となっています。

フタル酸エステルは主に、フタル酸エステルが含まれた食品容器に接触した食品を介して体内へ取り込まれます。その他、空気やダスト(ホコリ)に吸着して存在し、呼吸や皮膚への接触によっても取り込まれています。そのため、室内での恒常的なフタル酸エステルの曝露による健康影響が注目されています。

これまでに、ハウスダスト中のフタル酸エステル類の濃度は数多くの研究で報告されてきましたが、フタル酸エステル濃度と住環境との関連については報告がほとんどありませんでした。そこで、私たちはハウスダスト中のフタル酸エステル濃度を測定し、住居の特徴との関連を明らかにするために研究を行いました。

 

【研究方法】

2009年、2010年の9月と10月に、調査に協力が得られた札幌市内の小学生が住む住居128件に訪問調査を行いました。

ハンディクリーナーを用いて居間の床全面(以後、床ダスト)と床より上の棚や家具の表面(以後、棚ダスト)の2カ所に分けてハウスダストを採取し、フタル酸エステル7化合物の濃度を測定しました。

住居の構造、築年数、 戸建か集合住宅、改築の有無、世帯収入、結露の有無などの湿度環境5項目については調査票によって評価し、床材、壁材、天井材の種類、掃除頻度などは調査員による観察や住人への聞き取りによって評価しました。

 

【結果】

ダスト中のフタル酸エステル濃度は床ダストよりも棚ダストで有意に高く、棚ダスト中 フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)は海外の研究(台湾、デンマーク、ブルガリア、スウェーデン)の値よりも高値でした。

床ダスト中では、集積材(薄い木の板を張り合わせて作られた木製のフローリングのこと)のフローリングを使用している住居でフタル酸ジイソブチル(DiBP) が、PVC の床材でDEHPがそれぞれ高濃度でした。

図1床ダスト中DiBP濃度と床材の種類との関連

 

図2床ダスト中DEHP濃度と床材の種類との関連

 

【考察と今後の課題】

本研究は、 ハウスダストの採取場所を高所と低所の2カ所に分けて住居の特徴との関連を明らかに初めての研究です。

床ダスト中のフタル酸ジイソブチル(DiBP) は集積フローリング、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)はポリ塩化ビニル(PVC)の床材がそれぞれ発生源になっている可能性を示しました。

現在、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)は一部の食品容器や子どもが口に入れる可能性のある玩具に対しての使用が禁止されていますが、フタル酸ジイソブチル(DiBP)もフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)同様、アレルギー反応を増強させる効果が動物実験によって報告されていることから、フタル酸ジイソブチル(DiBP)が含まれる製品に対しても規制などの考慮が必要であることが考えられます。

さらに、本研究のフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)濃度は海外の研究と比較して高値を示していることから、日本の住居ではフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)の曝露に特に注意を払う必要があるでしょう。 本研究では、同じ住居でも床ダストと比べて棚ダストのほうが高濃度にフタル酸エステルが検出されましたが、 床に座って遊ぶことの多い子どもにとって、濃度の高い棚ダストか、床により近い床ダストがアレルギーに影響するのかについては今後明らかにしていく予定です。

 

【原著論文】

Ait Bamai Y., Araki A., Kawai T., Tsuboi T., Saito I., Yoshioka E., Kanazawa A., Tajima S., Cong S., Tamakoshi A., Kishi R.; Associations of phthalate concentrations in floor dust and multi-surface dust with the interior materials in Japanese dwellings. Sci Total Environ. 468-469 147-157, 2014.

2013年9月20日 更新 キーワード:, , ,

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