環境と健康ひろば
働く人々の心身の健康

2013年9月20日

睡眠と糖尿病;よい眠りが糖尿病を予防する

【はじめに】

日本の糖尿病患者は、「平成23年国民健康栄養調査」によると、疑いのある人も含めると成人の16.2%に達し、増加の一途をたどっています。日本人に限らず、概してアジア人は、欧米人に比べ2型糖尿病になりやすく、若い年齢で失明や腎透析などの深刻な合併症に進行しやすいことが指摘されています。  働き盛りの発病は、個人のQOLを損なうだけでなく、家族や社会に与える影響が大きく、医療経済の観点からも予防対策が急がれている疾病の一つです。この病気の予防には、適切な食事量と適度な運動が有効であることはよく知られています。加えて、21世紀に入ってから、睡眠不足や不眠症状も糖尿病の要因のひとつになるのではないかと議論になり、欧米を中心に長期間の追跡調査が始まりました。  その結果、5-6時間以下の短時間睡眠、9-10時間以上の長時間睡眠、不眠症状が2型糖尿病のリスクを高くすることがわかってきました。では、どのような人々が不適切な睡眠で糖尿病になりやすいのでしょう?睡眠時間の影響は、人種によって異なるようだという報告が一つあります。しかし、アジア人の調査は十分といえるものはありませんでした。

そこで私たちは、北海道に住む地方公務員の方たち3,570人の健診データと睡眠状況を聞き取りし、日本人の睡眠と糖尿病リスクの関係を調べました。また、睡眠-糖尿病の関連がどのような人々に強くなるのかも調べてみました。

【結果】

2003年から2007年の4年間で糖尿病を発病したのは121人(3.4%)でした。平均睡眠時間は、6.6時間で、6-7時間が43.9%、5時間以下8.0%、5-6時間28.8%、7時間超が19.3%でした。不眠症状のある人は、「入眠困難」4.7%、「中途覚醒」3.7%、「早朝覚醒」5.9%、「睡眠不足感」8.0%、「睡眠の不満」8.8%でした。睡眠時間別に調べたところ、糖尿病になるリスクに違いはありませんでした。不眠症状別では、「睡眠不足感」のある人は、ない人に比べて5倍のリスクとなりました。その他の不眠症状にリスクの違いはありませんでした。

次に、睡眠の影響が大きい人の特徴を調べてみました。すると、糖尿病の家族歴がない2,788人(全体の85.1%)は、図1のように、睡眠時間が短くなるほど糖尿病のリスクが高くなり、5時間以下の人は、7時間超の人に比べ、5.4倍のリスクとなることがわかりました。不眠症状でも(図2)、「睡眠不足感」のある人はない人に比べ6.8倍、「中途覚醒」は5倍、「睡眠の不満」は3.7倍、リスクが高くなることがわかりました。

 

図1家族歴が無い人の睡眠時間と糖尿病リスク

図2家族歴が無い人の不眠症状と糖尿病リスク

【考察】

健康な若者を対象にした実験があります。睡眠を4時間に減らす、あるいは深い眠りになるのを妨害すると、血糖値を正常に保つホルモンに異常(耐糖能異常)がおこることがわかりました。耐糖能の異常は、糖尿病になる前に起こる体の変化とみなされます。つまり、短時間睡眠や不眠症状が糖尿病への進行を引き起こすのではないかと考えられます。 また、短時間睡眠は食欲を刺激し、特に、スナック菓子や糖質を好むようになるとの報告もあります。最近の画像診断で、時間睡眠を無理に減らすと、食べる量を調節する脳の領域に異常が起こるが確認されました。これらの報告と私たちの研究結果から、良い眠りを確保することが糖尿病予防につながるのではないかと考えています。 (*長時間睡眠がなぜ糖尿病のリスクを高くするのかは、よくわかっていません。今回の研究では、8時間以上の睡眠者が少なく、リスク評価ができませんでした。他の研究によると、睡眠時間を延ばしても血糖値に大きな変化はみられません。長時間睡眠を必要とする病的変化が糖尿病発病に関係しているのではないかと考えられています。)

睡眠は、個人の努力だけでは改善できないことも多いのですが、よい眠りのためにできることを紹介します。

  1. 最低でも1日5時間以上の睡眠を確保すること。
  2. 就寝1時間前は、波長の短い光(電子機器、テレビ、パソコン、携帯電話など)や明るい照明(200ルクス以上)を避ける。
  3. 仕事などで不眠症状があるときや睡眠時間が短いときは、いつも以上に食事に気を配る。たとえば、野菜を多くとり、糖質や炭水化物を控える。寝る2時間前の食事は控えめにする。
  4. 昼間の軽い運動は、睡眠導入作用のあるメラトニンを増やします。また、血糖値を安定させるという報告もあります。

 

【原著論文】

Kita T., Yoshioka E., Satoh H., Saijo Y., Kawaharada M., Okada E., Kishi R.; Short sleep duration and poor sleep quality increase the risk of diabetes in Japanese workers with no family history of diabetes. Diabetes Care. 35 (2):313-318, 2012.

2013年9月20日 更新 キーワード:, ,

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