環境と健康ひろば
北海道スタディ

2013年9月6日

先天異常の発生状況

【研究目的】

国際先天異常モニタリングセンター(Japan Association of Obstetricians and Gynaecologists: JAOG) 報告によると、わが国の先天異常の発生率は1997年から画像診断による心臓血管形態異常把握開始により、若干の増加を示し約1.7〜2%前後となりその後、大きな変動はみられていない(平原史樹. 2007)。JAOGは全国270施設が登録しており、国際的な先天異常モニタリングシステムInternational Clearinghouse for Birth Defects Surveillance and Research (ICBDSR) に報告を行っている。しかし、JAOGの登録施設は大学病院や地域基幹病院中心で、わが国の出産のわずか9%のカバー率であるため、選択バイアスの問題が指摘されている (湯浅ら. 2009; 篠崎ら. 2010)。本研究は、平成15年から現在進行中の前向きコホート研究によって、北海道全域の産科クリニックから大学病院まで多様な規模の参加施設の協力のもと、北海道における先天異常発生状況を調査することを目的にしている。

【研究方法】

対象は平成14年から平成23年10月末までに、北海道内の40 産科医療施設で妊婦健診を行い、本調査への参加に同意した妊婦の19,806名である。参加登録妊婦が出産した場合、出産施設に新生児の健康状態を7日間観察し、研究班作成の「新生児個票」に記入後、郵送による返送を依頼した。「新生児個票」の質問項目は、出産日、在胎週数、出生時体重、児性別、単・多胎、生・死・流産、妊娠中の疾患、先天異常の有無、先天異常内容などである。先天異常の内容は、異常発生に環境要因の関与が考えられる先天性心疾患、口唇口蓋裂、停留精巣などの奇形55種をマーカー奇形として設定し、その他の先天奇形については自由記載とした。提出された全新生児個票(流産、死産含む)から先天異常の発生状況を算出した。今回は、平成23年10月末までに受け付けた新生児個票18,383件について先天異常発生状況を集計した。
本研究は、北海道大学環境健康科学研究教育センターおよび北海道大学大学院医学研究科・医の倫理委員会の承認を得た。

【研究結果】

(1) 対象母児の属性

平成15年1月から23年10月までに新生児個票が送られてきた対象者は18,383名であり、出産時年齢は30.4±6.歳、在胎週数38.4±3.2週であった。児の性別は男児9,197名(50.2%)、女児8,978名(49.0%)であった。 (表1)。

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(2) 先天異常の発生状況

生産、死産、流産を含む全出産18,383件のうち、何らかの先天異常のある児の総数は354件(1.93%)であった。その中で、マーカー奇形248件(1.35%)、その他の先天奇形136件(0.74%)であった。また、在胎22週以降の出産18,119件中では、先天異常のある児は307件(1.69%)であった(表2)。

1-1_表2
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全出産において、出産1万対の有病率で最も高い先天異常は心室中隔欠損症28名と停留精巣・非触知精巣13名(男児のみ9,197名で算出)15.2であった。次いてDown症候群13.1(24名)、口唇口蓋裂10.9(20名)、多指症9.2(17名)などであった(表3)。

1-1_表3
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マーカー奇形、先天性心疾患の内訳を表4および表5に示した。マーカー奇形以外の先天異常は、中枢神経系疾患、マーカー奇形以外の染色体異常、下肢形成不良などの重篤な大奇形から、副耳、臀部母斑などの小奇形まで80種の報告があった(表6)。

1-1_表6
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(3) 先天異常有病率: JAOGとの比較

在胎22週以降の出産に関して先天異常有病率を平成14-18年度のJAOG報告(ICBDSR Annual Report. 2008)と比較すると、尿道下裂の有病率がJAOGよりも2.4、ダウン症が1.8高かった(いずれも出生1万対)。一方、心室中隔欠損症、ファロー四徴症、大血管転位症などの先天性心疾患、水頭症、脊髄髄膜瘤、食道閉鎖、小腸閉鎖、異形成腎、18 トリソミー などはJAOGよりも低い有病率であった(表4、5)。

1-1_表4
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【考察】

平成15年から平成23年10月までの在胎22週以降の先天異常発生率は1.69%であり、JAOGの1.80%(平成18年度)とほぼ同程度であった。しかし、尿道下裂はJAOG よりも2.4高かった。わが国の尿道下裂は近年上昇傾向が報告されているが(ICBDSR Annual Report. 2008)、倉橋ら(2005)はJAOGの尿道下裂の有病率を解釈するうえで、㈰モニタリング対象数が限定されることによる選択バイアスの存在、㈪モニタリング初期段階の軽症例の見落とし、㈫診断基準の地域差を考慮する必要があることを指摘している。尿道下裂に限らず、先天異常有病率を国内外の報告と比較するにはこれらの点に留意して、発生数、年次推移を検討する必要がある。

先天異常は染色体異常や多因子遺伝によるものが大部分を占める。多因子遺伝は環境要因と遺伝子要因との相互作用により発生するが、そのメカニズムはまだ解明されていないものが多い。近年、葉酸代謝関連遺伝子多型と神経管欠損症、口唇裂、先天心疾患などとの関連も報告されている(Bufalino et al. 2010;Zhu et al. 2010)。今後は、先天異常発生に関与する遺伝子多型とその活性に影響を及ぼす生活要因とも合わせて、先天異常発生要因を検討する必要がある。

2013年9月6日 更新 キーワード:,

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