妊婦の血液中の有機塩素農薬と妊婦の特徴との関係

この研究の背景

殆ど分解されることのない有機塩素系(POC)農薬の製造や使用は、2004年のストックホルム条約で全世界的に禁止されました。これらの農薬は脂肪に溶けやすいこと、環境に長期間残留していること、そして風雨によってかなりの長距離に飛散することなどから、人間や動物の体内での蓄積が問題となっています。

POC農薬が身体に及ぼす影響は大きく、生殖機能や認知機能、神経系の発達に対して有害であることが知られていて、胎盤を通過して胎児に移行していると思われます。しかし、人体に対する具体的な毒性についてはちゃんと調べられていません。

この研究の目的

北海道の妊婦がPOC農薬に曝露している程度、及びこれらの農薬の身体への影響度と、年齢、妊娠前の体重、採血した日などとの間の関連性を明らかにすることです。

どのようにして調べたの?
  1. 札幌の東豊病院を受診している186名の妊婦さんを対象に、2002年~2005年にかけてアンケート調査と採血を行いました。
  2. 血液サンプルに含まれている可能性のある29種類のPOC農薬の有無及び量を調べました。
  3. 採血した妊娠時期によって、血液サンプルを妊娠中期、妊娠後期及び出産時の3群に分けました。
  4. 採血した歴年によって、2002年、2003年、2004+2005年の3群に分けました。
この研究が明らかにしたこと

調べた29種類の農薬の内、21種類(この内3種類は日本では使用されていないもの)が被験者の血液サンプルから検出されました。検出された農薬の量は、互いに比例していました。大半のPOC農薬の濃度が暦年を追うごとに低下していました。妊娠回数が増えるほど、また、出産回数が増えるほど、殆どのPOC農薬の濃度が低下していました。妊婦さんの暦年齢が高いほどPOC農薬の濃度が高くなっていました。日本では使用されていない3種類のPOC農薬が80%を越える妊婦さんから検出されました。一部の農薬が採血した妊娠時期に従って増加していました。

この研究で得られたこと

暦年を追うごとに農薬濃度が低下していたのは、世界的にPOC農薬の製造・使用が禁止されたためと思われます。日本では使用されていない農薬が殆どの妊婦さんから検出されたことから、日本の環境は近隣諸国の農薬の使用状況の影響を受けていることが分りました。農薬の濃度は、妊娠前のBMIよりも妊娠前の体重の方と強く比例していました。また、農薬の濃度は、出産回数よりも受胎回数の方と強く比例していました。

POC農薬の身体への影響度は、妊婦さんの年齢、妊娠前の体重、そして受胎回数などと強い関係にありました。

 

出典:
Ayako Kanazawa, Chihiro Miyasita, Emiko Okada, et. al., Blood persistent organochlorine pesticides in pregnant women in relation to physical and environmental variables in The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health, Science of the Total Environment 426 (2012) 73–82.

(2020 IF: 7.963)