フッ素化合物(PFOS)胎児の成長を妨げる

この研究の背景

ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)などのフッ素化合物は、50年程前から製造されている人工のもので、いつまでも分解されずに残っています。野生生物や人間の体内、水や土、様々な工業製品からみつかっていて、2009年に残留汚染化学物質として世界的に指定されています。

妊娠しているラットやマウスの実験では、母親にPFOSやPFOAを与えると胎児の出生時体重が減少することが分っています。PFOSやPFOAが胎盤を通過して胎児の身体に入ると、脂肪の代謝や甲状腺ホルモンの分泌が阻害されるために胎児の発育が悪くなると考えられています。

しかし、これまでのところ人間の妊婦や赤ちゃんでの研究は少なく、しかもその結果は様々です。

この研究の目的

日本人の妊娠を対象に、母親の血清中のPFOSやPFOAの量と、赤ちゃんの出生時の体重とサイズ(身長、胸囲、頭囲)の間の関係性を検討することです。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年~2005年に、札幌において研究を行いました。
  2. 札幌東豊病院に通院している妊娠23~35週の間の妊婦さんを募集し、妊娠中期の終わりに自己記入式のアンケート調査をしたうえで、採血をしてPFOSやPFOAの量を調べました。
  3. 赤ちゃんが生まれた時点で、性別、体重、身長、胸囲、頭囲を測りました。
この研究が明らかにしたこと

合計428例の母子が本研究に参加しました。母親の平均年齢は、30.5歳、初産婦が202名、経産婦が226名、血中のPFOSが5.6ng/mL(1.3~16.2ng/mL)、PFOAが1.4ng/mL(0~5.3ng/mL)でした。

赤ちゃんの性別は男児が198名(46.3%)、各平均は在胎日数が275.5日、体重が3058.1g、身長が48.1cm、胸囲が31.4cm、頭囲が33.2cmでした。

母親の年齢、学歴、BMI、出産回数、妊娠期間中の喫煙状況、さらに、胎児の性別、在胎期間で調整すると、PFOSが1.0ng/mL増えるごとに、赤ちゃんの体重が148.8gずつ減ることが分りました。一方、PFOAでは明らかな体重減少はみられませんでした。また、赤ちゃんの身長、胸囲、頭囲にも明らかな減少はみられませんでした。

この研究で得られたこと

この結果より、人間の母子でも、PFOSやPFOAは胎盤を通過して胎児の身体に入っていると考えられます。
これまでに行われた他の妊婦や赤ちゃんでのPFOSやPFOAに関する研究結果は様々でした。その理由として、調整の方法が、本研究のように、母親の年齢、学歴、BMI、出産回数、妊娠期間中の喫煙状況や、胎児の性別、在胎期間などではなかったためと思われます。
本研究は妊婦さんの血中のPFOSと胎児の体重減少に関連があることを示しています。POFSは分解されずに残ってしまうので、人間、特に子供たちに対する潜在的毒性を評価していく必要があると考えられます。

 

出典:
Noriaki Washino, Yasuaki Saijo, Seiko Sasaki,, et. al., Correlations between Prenatal Exposure to Perfluorinated Chemicals and Reduced Fetal Growth, Environmental Health Perspectives 2009; 4:660–667.

(2020 IF: 9.031)