妊婦の喫煙、未就学児のADHD発症、DNAメチル化の3つの関係を調べました

この研究の背景

妊娠中のお母さんの喫煙は、肥満、喘息、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など、子どもの健康への影響が懸念されています。DNAメチル化(エピゲノム、遺伝子からたんぱく質を合成するスイッチの役割をしている)は、遺伝子発現を抑制する際に重要な役割を果たすもので、最近では、妊娠中のお母さんの喫煙が、臍帯血中のDNAメチル化の変化と関連しているという報告があります。ADHDは、遺伝的要因と環境的要因が相互に影響し合う複雑な疾患です。妊娠中のお母さんが喫煙したり、環境化学物質に曝されたり、ストレスなどにより精神的健康を害したりすることは、子どものADHDの発症リスクを高めると言われています。しかし、DNAメチル化が、妊娠中のお母さんの喫煙と子どものADHDとの関連性に関与しているかどうかを調べた研究はありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中の喫煙、未就学児のADHD、臍帯血中のDNAメチル化の3つの関係を調べました。具体的には、妊娠中のお母さんの喫煙により、DNAメチル化に変化が生じた5つの遺伝子のCpGサイト(シトシンとグアニンの2塩基配列が多く出現するところ)を選択し、DNAメチル化率を測定しました。そして、これらのDNAメチル化の変化が、妊娠中の喫煙とADHDとの関係に関与しているかどうかを調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 妊娠中のお母さんの血液からコチニン(ニコチンの代謝物質)濃度を測定しました。
  2. お子さまが6歳になったときに、お子さまのご両親に、ADHDに関するアンケートに回答していただきました。
  3. 臍帯血からゲノムDNAを抽出しました。
  4. 上記データをもとに、1150組の母児ペアを解析しました。
この研究が明らかにしたこと

1150人のお母さんのうち、612人が非喫煙者、429人が受動喫煙者、109人が能動喫煙者でした。188人の子どもにADHDが見られました。妊娠中のお母さんの喫煙は、子どもがADHDを発症するリスク上昇と深く関与していました。GFI1遺伝子とESR1遺伝子において、DNAメチル化率の1ユニットの増加は、ADHDの極めて低い発症確率と関与していました。CYP1A1クラスター2、ESR1クラスター1、MYO1Gクラスター1と3のDNAメチル化率の1ユニットの増加もまた、ADHDの極めて低い発症確率と関与していました。その一方で、MYO1Gクラスター2のDNAメチル化率の1ユニットの増加は、ADHDの極めて高い発症確率と関与していました。

さらに、妊婦の喫煙は、臍帯血中DNAメチル化の変化と子どものADHD症状と関連していました。そして、臍帯血中の成長因子に関わる遺伝子領域(GFI1)のメチル化が、妊婦の喫煙による子どものADHD症状に与える影響のうち、48%説明できることを示しました。

この研究で得られたこと

今回の研究では、妊娠中の喫煙が、未就学児のADHDとDNAメチル化の変化に関与していることがわかりました。また、GFI1遺伝子のDNAメチル化は、ADHDに対する妊娠中の喫煙効果に関連していることを示す結果となりました。

出典:
Kunio Miyake, Chihiro Miyashita, Atsuko Ikeda‑Araki, et al., DNA methylation of GFI1 as a mediator of the association between prenatal smoking exposure and ADHD symptoms at 6 years: the Hokkaido Study on Environment and Children’s Health. Clin Epigenet (2021) 13:74.

(2020 IF: 6.551)