パーフルオロオクタンスルホン酸とパーフルオロオクタン酸への曝露と妊婦の脂質の関係は?

この研究の背景

パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とパーフルオロオクタン酸(PFOA)は、繊維、カーペットなどに使用される化学物質です。これらの物質は、ヒトの子孫の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。パルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪酸(FA)は、トリグリセリド(TG、体脂肪の大部分を占める物質)の大部分を占める物質です。このTGについては、過去の研究において、PFOSまたはPFOA濃度の上昇とTG濃度の低下に関連があったことが報告されています。しかし、この報告とは異なる研究成果もあるため、PFOSおよびPFOA濃度とTGおよびFAとの関連は依然として不明です。PFOSとPFOAの受容体(PPAR、CAR、LXR)は、脂質のホメオスタシス(生体の一定の状態を維持しようとする働きのこと)に関与しています。これらの受容体を合成している遺伝子には、疾患の発症に関連する一塩基多型(SNP:DNAの配列の中で1つだけ異なっていること)が存在します。しかし、脂質ホメオスタシスとSNPとの関連については、限られた情報しかありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんの血液に含まれるPFOSおよびPFOA濃度と、TGおよびFA濃度との関連を調べました。この研究の追跡調査として、PFOSおよびPFOA濃度と、核内受容体(ステロイドホルモンなどの受容体)のSNPおよびFA濃度との関連性を調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 504人のお母さんを対象に研究を行いました。
  2. 妊娠中のお母さんの血液からPFOSとPFOAの濃度を測定しました。
  3. 出産時のお母さんの血液からゲノムDNA(DNAの配列情報のこと)を抽出し、13種類のSNPの遺伝子型を調べました。
  4. お母さんの血液からTGとFAの濃度を測定しました。
この研究が明らかにしたこと

遺伝子と環境の相互作用では、PFOS暴露が、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸の各濃度を低下させました。そのときに観察されたβ値(PFOS濃度が10倍になるごとの、トリグリセリド、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸の濃度の変化)は-0.452から-0.244の範囲でした。PPARGC1A遺伝子の遺伝子多型rs8192678とPPARD遺伝子の遺伝子多型rs1053049とrs2267668は、トリグリセリド、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸の各濃度を低下させました。そのときに観察されたβ値は-0.266から-0.176の範囲でした。PFOS曝露とSNP間の相互作用は、パルミチン酸において著しく見られました。

この研究で得られたこと

今回の研究では、お母さんのPFOSの濃度とPPARGC1A遺伝子あるいはPPARD遺伝子との間の相互作用が、お母さんの血液中のFAとTGとの間の関係に影響を及ぼすことがわかりました。その結果、妊娠中のお母さんのPFOS曝露を極力避けること、そして、高リスクである遺伝子グループに関する情報を収集する必要があることを示す結果となりました。

出典:
Sumitaka Kobayashi, Fumihiro Sata, Houman Goudarzi, et al., Associations among perfluorooctanesulfonic/perfluorooctanoic acid levels, nuclear receptor gene polymorphisms, and lipid levels in pregnant women in the Hokkaido study. Scientific Reports (2021) 11:9994.

(2020 IF: 4.380)