フタルエステル類の子どもへの曝露状況を5年間に渡って調べてみました

この研究の背景

近年、プラスチック等の製品に使われるフタル酸エステル類の使用量が増え、各国も規制に乗り出しています。しかし、フタル酸エステル類の子どもでの摂取状況を長期的に調べた研究はこれまでありませんでした。

この研究の目的

2012年~2017年に7歳になった子どもの尿から、体に取り込んだフタル酸エステル類の量を調べ、①長期的な変化、②影響を及す住居環境、の2点を調査しました。

どのようにして調べたの?
  1. 2012年~2017年に7歳になった北海道に住む子どもから、朝1番の尿を集めました。
  2. ご両親には、お子さまの身長や体重、アレルギーの有無や、お住まいに関するアンケートに回答していただきました。
  3. フタル酸エステル類の尿中代謝物を測って、体に取り込まれたフタル酸エステル類の量を計算しました。
この研究が明らかにしたこと

1)フタル酸エステル類の摂取量の変化

7歳児が体内に取り込んだフタル酸エステル類の量(摂取量)は2012年~2017年で目立った変化はありませんでした。しかしこの間、規制の対象となったDEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)の生産は13.3%(13.5万トンから11.7万トン)減り、対象外のDINP(フタル酸ジイソノニル)の生産は43.2%(6.7万トンから9.6万トン)増えました。7歳児が体内に取り込んだフタル酸エステル類の多くは規制対象外のものであったと考えられます。

2)フタル酸エステル類の摂取量に影響を与える住居環境

年収の低い家庭の子どもや古い住居に住んでいる子どもでは摂取量が多く、また、1時間以上窓を開けている習慣のある子どもでは1時間未満の子どもよりも摂取量が多いことがわかりました。この原因は不明ですが、古い住居では建材などに含まれているフタル酸エステル類の量が多いこと、窓を開けて換気すると建材から発散される化合物の量が増えることなどが報告されています。

一方、週4日以上掃除機を掛けている家庭の子どもでは、週3日以下の家庭の子どもよりも摂取量が少ないことも解りました。これは、室内をこまめに掃除すると、フタル酸エステル類の摂取量が減ることを意味していて、子どもが摂取する主な経路が室内ダストであると考えられます。

 

この研究で得られたこと

フタル酸エステル類の使用量は増えていますが、小児への曝露量は一定であることが示されました。この原因として、比較的新しい家屋では建材に含まれるフタル酸エステル類の量が少ないこと、こまめな掃除により室内環境が改善することなどにより、フタル酸エステル類の曝露量が減ったと考えられます。

出典:
Rahel Mesfin Ketema, Yu Ait Bamai, Atsuko Ikeda-Araki, et.al., Secular trends of urinary phthalate metabolites in 7-year old children and association with building characteristics: Hokkaido study on environment and children’s health, International Journal of Hygiene and Environmental Health 234 (2021) 113724(2020 IF: 5.840)