胎内でフタルエステル類に曝されると子どものDNAメチル(エピゲノム)影響があるの?

この研究の背景

フタル酸エステル類は、食品パッケージや玩具などに含まれている添加剤です。妊娠中にこの化学物質に曝されることによる、おなかの赤ちゃんへの悪影響が懸念されています。特に、おなかの赤ちゃんのDNAメチル化(エピゲノム、遺伝子からたんぱく質を合成させるスイッチの役割をする)にどのような影響を及ぼすかを検討した研究はほとんどありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんの血液中のDEHP(最も一般的なフタル酸エステル類の1つ)と臍帯血中のDNAメチル化(遺伝子に印をつけて、遺伝子からたんぱく質を合成させるスイッチの役割をする)との関係を調べました。それに加え、DEHPと赤ちゃんが誕生したときに測定した体格指数との関係において、DNAメチル化が関与しているのかを調べました。

どのようにして調べたの?
  1. お母さんの血液からMEHP(DEHPの分解物)の濃度を測定しました。
  2. 臍帯血からDNAメチル化割合を測定しました。
  3. 生まれたときの身長と体重を測定し、体格指数(体重÷身長)を求めました。
この研究が明らかにしたこと

妊娠中のお母さんの血液中のMEHPの濃度が高いほど、赤ちゃんが誕生したときの体格指標が低くなりました。その一方で、MEHPの濃度が高いほど、臍帯血中のDNAメチル化割合は高くなりました。DEHPによってDNAメチル化割合が多い遺伝子は、代謝、内分泌系、シグナル伝達に関連する経路に集中していました。その中でも、特に、代謝関係する遺伝子のDNAメチル化割合が高ければ高いほど、赤ちゃんが誕生したときの体格指標の数値が小さくなるという結果になりました。また、今回の研究参加者(データがすべて揃う203組の母児ペア)において、MEHPの濃度の上昇と赤ちゃんの体格指標の低下には、おなじ遺伝子群のDNAのメチル化が起きていたことがわかりました。

この研究で得られたこと

この研究では、DEHPの胎内曝露が、DNAメチル化を誘導させていることがわかりました。臍帯血中のDNAメチル化とDEHPの胎内暴露との関係、その後の赤ちゃんへの長期的な影響を完全に明らかにするためには、より多くの研究参加者による追加研究が必要であることを示す結果となりました。

 

出典:
Ryu Miura, Atsuko Ikeda-Araki, Toru Ishihara, et.al., Effect of prenatal exposure to phthalates on epigenome-wide DNA methylations in cord blood and implications for fetal growth: The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health, Science of the Total Environment 783 (2021) 147035 (2020 IF: 7.963)