フタルエステル類およびリンエステル系難燃剤と可塑剤の混合暴露は、子どものアレルギー関係があるの?

この研究の背景

フタル酸エステル類およびリン系難燃(PFR)は、主に塩化ビニル樹脂を中心としたプラスチックを柔らかくするために、かつ製品の難燃剤として用いられる化合物です。建材や内装材に用いられるため、室内の空気やほこりから検出されます。ヒトは、日常生活において、複数の化学物質に同時に曝されています。これまでの研究では、フタル酸エステル類やPFRとアレルギー症状との関連において、様々な化学物質を個別に検討していました。しかし、これまでの数理モデルでは、例えば、フタル酸エステル類とPFRの曝露量が互いに相関している場合、混合曝露による関連を検討することはできず、従ってフタル酸エステル類とPFRの混合や組み合わせとの関連を報告した研究はありませんでした。

この研究の目的

フタル酸エステル類とPFRの混合曝露が、子どもの喘鳴、鼻結膜炎、湿疹の有病率(ある一時点で、疾病がある人の割合)を増加させるという仮説を立て、それを検証しました。

どのようにして調べたの?
  1. 128人の小学生に参加してもらいました。
  2. お子さまの尿中の6種類のフタル酸エステル類と14種類のPFR代謝物を測定しました。
  3. お子さまの症状(喘鳴、鼻結膜炎、湿疹)について、保護者の方にアンケートに回答していただきました。
この研究が明らかにしたこと

喘鳴、鼻結膜炎、湿疹の症状を訴えた子どもの数は、それぞれ29人(22.7%)、47人(36.7%)、36人(28.1%)でした。上記3つにおいて、72人(56.3%)の子ども

が複数の症状を訴えていました。全代謝物のうち、ΣDEHP(DEHP代謝物:MEHP、MEOHP、MECPPの合計)の検出濃度が最も高く、次にΣDBP (DBP代謝物:MnBP、MiBPの合計)でした。PFR代謝物全体の濃度は、フタル酸エステル類代謝物全体の濃度に比べ、約100倍低い値でした。混合曝露と喘鳴、鼻結膜炎、湿疹との関連のうち、最も高いオッズ比(2つの比較において、ある事象の起こりやすさを示す指標)が認められたのは、鼻結膜炎のオッズ比:2.60でした。混合曝露のうち、最も寄与の大きかった代謝物は、ΣTCIPP(BCIPPとBCIPHIPPの合計)が35.0%、ΣTPHP (DPHPと4-HO-DPHPの合計)が24.9%でした。

 

この研究で得られたこと

今回の研究では、小学生の子どもを対象に、フタル酸エステル類とPFRへの混合曝露と鼻結膜炎の有病率との間に有意な関連が見られました。しかし、別の方法で解析を行うと、異なる結果になりました。本研究は人数はそれほど多くないことから予備的検討であり、今後、さらに対象者数を増やした研究が必要であることを示す結果となりました。

出典:
Atsuko Araki, Yu Ait Bamai, Michiel Bastiaensen, et al., Combined exposure to phthalate esters and phosphate flame retardants and plasticizers and their associations with wheeze and allergy symptoms among school children. Environmental Research 183 (2020) 109212.

(2020 IF: 6.498)