フタルエステル類あるいはビスフェノールA胎内曝露と遺伝子型は、子どもの性分化に影響するの?

この研究の背景

フタル酸エステル類とビスフェノールA(BPA)は、内分泌系に悪影響を及ぼし、ホルモン機能を低下させる内分泌かく乱化学物質(EDC)です。どちらも、私たちの身の回りに存在し、体内に取り込まれる可能性のある物質です。これらは、エストロゲンの作用を模倣することで知られており、妊娠中にこれらの物質に曝されると、おなかの赤ちゃんの性分化に影響を与えると言われています。生殖や骨などの機能に対して作用することで知られているエストロゲン受容体アルファは、ESR1遺伝子によって支配されています。このESR1遺伝子には3つの一塩基多型(ESR1多型:塩基配列中の、ある一つの塩基が別の塩基に置換られること)が存在します。これらの多型が、妊娠中のお母さんのEDCへの曝露と、男女の性差を示す人差し指と薬指の比率(2D:4D比)との関係に影響を与える可能性が指摘されていますが、おなかの赤ちゃんのEDC曝露と性分化、ESR1多型との関係についての報告はありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんのフタル酸エステル類あるいはBPAへの曝露と2D:4Dの関係について調べました。その関係が、おなかの赤ちゃんの性分化に与える影響を明らかにしました。ESR1遺伝子が、2D:4Dに対する妊娠中のお母さんのフタル酸エステル類あるいはBPAに影響を及ぼすかどうか調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 7歳のお子さまとお母さんペアの623組が参加しました。
  2. お子さまの人差し指と薬指の長さを測定しました。
  3. 妊娠初期のお母さんの血液に含まれるBPAと7種類のフタル酸エステル類の代謝物を測定しました。
  4. 臍帯血からゲノムDNAを抽出し、3つのESR1多型を判定しました。
この研究が明らかにしたこと

MEHPあるいはDEHP(どちらもフタル酸エステル類の代謝物)への胎内曝露とESR1多型では、2D:4Dとの間に関連性が見られませんでした。しかし、性別で見ると、男の子では2D:4Dが高くなりました。MEHP高曝露群およびrs2077647(3つのESR1多型の1つ)のAG/GG型(遺伝子型のこと)を持つ男児では、MEHP低濃度検出群およびAA型の男児と比較して2D:4D値が低くなりました(つまり女性化傾向を示しました)。DEHPについても同様な結果でした。しかし、女の子では、このような関連性が見られませんでした。

この研究で得られたこと

今回の研究では、rs2077647のAG/GG型で、DEHPの胎内曝露量が多かった男の子では、2D:4Dが高くなる(つまり、女性化している)ことがわかりました。今回の結果からは、ESR1多型が、DEHP胎内曝露時の男児の性分化に影響を与えている可能性があると考えられました。これらの関係を確認するためには、さらなる研究が必要です。

出典:
Yoko Nishimura, Kimihiko Moriyaa, Sumitaka Kobayashi, et al., Association of exposure to prenatal phthalate esters and bisphenol A and polymorphisms in the ESR1 gene with the second to fourth digit ratio in school-aged children: Data from the Hokkaido study. Steroids 159 (2020) 108637.

(2020 IF: 2.668)