妊婦が有機塩素系農薬に曝されると、母さんと赤ちゃんの甲状腺ホルモンはどうなるの?

この研究の背景

有機塩素系農薬(OCP)は、環境中に残留し、食物連鎖を通じてヒトや動物の脂肪組織に取り込まれ、人体に影響を及ぼすことから、残留性有機汚染物質として分類されています。2004年以降、世界中で禁止または制限されている化学物質ですが、大気、土壌、水、および動物やヒトから検出されています。妊娠中のお母さんのOCPへの曝露は、母体の甲状腺ホルモン(TH)の乱れや、生まれてくる子どものTH濃度の上昇など、母子ともに悪影響があると言われています。OCPは、DDTなどさまざまな形で存在するため、日常生活では、OCPへの多重曝露を経験しています。しかし、そうした影響を考慮した研究はありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、OCPへの曝露と、お母さんおよび赤ちゃんの甲状腺ホルモンとの関係を調べました。併せて、各甲状腺ホルモンと、OCPの多重曝露との関係についても調べました。

どのようにして調べたの?
  1. お母さんの血液に含まれる29種類のOCPを測定しました。
  2. 妊娠初期のお母さんと赤ちゃん(生後7日から43日)の血液に含まれる甲状腺刺激ホルモン(TSH)と遊離サイロキシン(FT4)を測定しました。
  3. 上記1と2のデータがすべて揃う333組の母児ペアを解析しました。
この研究が明らかにしたこと

29種類のOCPのうち、15種類が、80%を超える研究参加者から検出されました。妊娠中のお母さんのOCP曝露とお母さんの血液中に含まれるTHとの関係では、3つのOCP(o,p’-DDE、o,p’-DDT、dieldrin)とFT4において、負の相関が見られました。一方で、妊娠中のお母さんのOCP曝露と赤ちゃんの血液中に含まれるTHとの関係では、2つのOCP(cis-nonachlor、mirex)とFT4において、正の相関が見られました。多重曝露については、お母さんのFT4と、3つのOCP(o,p’-DDT、cis-HCE、dieldrin)との関係が最も強く、全体の86.8%を占めていました。赤ちゃんのFT4の場合、6つのOCP(trans-nonachlor、cis-nonachlor、Parlar-50、mirex、dieldrin、p,p’-DDT)との関係が最も強く、全体の72.4%を占めていました。赤ちゃんの場合、ダイオキシン類も全体の9.1%を示し、比較的に高い割合を占めていました。

この研究で得られたこと

今回の研究では、お母さんと赤ちゃんの両者において、OCPへの曝露がFT4と関連していることがわかりました。しかし、ほかのTHにおいては、OCPへの曝露との関係が見られませんでした。OCPが極めて低い値であっても、お母さんと赤ちゃんのTHに影響を与える可能性があるため、子どもの成長にも、今後、何らかの影響がでる可能性を示す結果となりました。

出典:
Keiko Yamazaki, Sachiko Itoh, Atsuko Araki, et al., Associations between prenatal exposure to organochlorine pesticides and thyroid hormone levels in mothers and infants: The Hokkaido study on environment and children’s health. Environmental Research 189 (2020) 109840.

(2020 IF: 6.498)