子どものビスフェノールAとその代替物質への曝露レベルを2012-2017年に調査しました

この研究の背景

さまざまな日用品に広く含有されている化学物質の一つにビスフェノール類があります。その中で、最も広く使われている物質がビスフェノールA(BPA)です。BPAは、ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂など、主にプラスチックの原料に硬化剤として添加されるほか、缶詰や食品容器の内面塗装や食品用ラップなどにも含まれています。BPAが、ヒトの体内に取り込まれると、有害な影響を及ぼす可能性が報告されています。例えば、BPAにより形成された活性酸素種(ROS)が組織損傷を引き起こす可能性や、アレルギーおよび炎症のリスク上昇とROSとの関連も報告されています。そのため、この化学物質に対する規制が世界的に厳しくなり、近年では、ビスフェノールF(BPF)、ビスフェノールS(BPS)などBPAの代替物質が使用されるようになりました。一方、BPAの代替物質は、構造的にも、機能的にも、BPAとの類似点が多いにもかかわらず、子どもへの暴露レベルや毒性について、あまり知られていません。

この研究の目的

北海道スタディでは、以下の4点:1)複数のビスフェノール類を同時に測定できる分析法の妥当性を検証、2)7歳の子どもを対象にBPAを含む7種類のビスフェノール類の尿中濃度を測定し、2012年から2017年までの変化、3)曝露の決定要因としての食生活、性別、家庭収入などを評価、4)子どもの、ビスフェノール類濃度と尿中酸化ストレスバイオマーカー(酸化ストレスの有無を示すマーカー)との関連性、について調べました。

どのようにして調べたの?
  1. お子さまの尿サンプル中に含まれる7種類のビスフェノール類を分析しました。
  2. お子さまの尿サンプル中に含まれる3種類の酸化ストレスバイオマーカーを測定しました。
  3. お子さまの尿サンプルと、お母さんに回答していただいたアンケートの両方が入手できた396例について解析しました。
この研究が明らかにしたこと

全種類のビスフェノール類が尿サンプルより検出されました。その中でも、BPA、BPF、BPSは、検出頻度が50%を超えていました、。BPA濃度は、調査をした2012年から2017年にかけて、毎年約6.5%低下する傾向が示されました。BPF濃度は、調査をした期間中変動はありませんでしたが、BPS濃度は、年2.8%程度上昇しました。BPAとBPF濃度は、冬に比べ、秋に集めた尿から高い濃度が示されました。尿中のBPF濃度が高いと、8-OHdG(酸化ストレスバイオマーカー)の濃度も高い関連が認められました。収入の低い家庭では、子どものBPAとBPF濃度が高めでした。受動喫煙に曝露された子どもは、高いBPA濃度を示しました。

この研究で得られたこと

今回の研究は、日本における子どものビスフェノール類濃度の年次推移の成果を報告した初めての研究です。ビスフェノール類への曝露による健康への影響の可能性も含めて、今後もさらなる研究が必要であることを示す結果となりました。

出典:
Celine Gys, Yu Ait Bamai, Atsuko Araki, et al., Biomonitoring and temporal trends of bisphenols exposure in Japanese school children. Environmental Research 191 (2020) 110172.

(2020 IF: 6.498)