妊婦のフタルエステル類への曝露と子どものアレルギー感染症の発症に関係があるの?

この研究の背景

玩具、食品パッケージなど多くの製品に使用されているフタル酸エステル類。その中で最も一般的な物質DEHPは、プラスチックに柔軟性や弾性を与える可塑剤として今でも多く使用されています。DEHPの健康への悪影響が懸念されているにもかかわらず、妊娠中のお母さんのDEHP曝露と臍帯血中のIgE(アレルギーに関係したタンパク質で、体を守る機能をもつ抗体)濃度、生まれてから7歳までの子どものアレルギー・感染症といった3つの関係を調べた研究はありませんでした。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんの血液中のMEHP(DEHPの分解物)濃度と臍帯血中のIgE濃度との関係を調べました。さらに、これらのMEHP濃度と、子どもが1.5歳、3.5歳、7.0歳時に発症したアレルギー・感染症との関係を調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 妊娠中のお母さんの血液からMEHPの濃度を測定しました。
  2. 臍帯血からIgE濃度を測定しました。
  3. 上記1と2のデータがすべて揃う127人(男の子:62人、女の子:65人)を解析しました。
  4. お子さまのご両親に、お子さまが5歳、3.5歳、7,0歳の時のアレルギーおよび感染症に関するアンケートに回答していただきました。
  5. 上記の1と4のデータが揃う258人(5歳:248人、3.5歳:222人、7.0歳:184人、重複あり)を解析しました。
この研究が明らかにしたこと

お母さんのMEHPは、生まれたときから7歳までの間に、中耳炎と水疱瘡を発症するリスクの上昇と関係がありました。性別に見た場合、女の子において、お母さんのMEHPは、3.5歳と生まれたときから7歳までの間に、喘鳴(ゼーゼーという音)と水疱瘡を発症するリスクの上昇と重大な関係のあることがわかりました。臍帯血中のIgE濃度とお母さんの血液中のMEHP濃度との間には、負の相関関係(MEHP濃度が上昇するとIgE濃度が低下するという関係)がありました。

 

この研究で得られたこと

この研究では、妊娠中のお母さんがDEHPに曝されると、子どもがアレルギーや感染症を発症するリスクが高まる可能性を示しました。今後は、より大きな集団を対象にMEHP以外のフタル酸エステル類の分解物と、それらが及ぼす健康への影響について、さらなる研究が必要であることを示す結果となりました。

 

出典:
Yu Ait Bamai, Chihiro Miyashita, Atsuko Araki, et al., Effects of prenatal di(2-ethylhexyl) phthalate exposure on childhood allergies and infectious diseases: The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health. Science of the Total Environment 618 (2018) 1408–1415.
(2020 IF: 7.963)