パーフルオロアルキル物質が妊婦に曝露されると胎児はどうなるの?

この研究の背景

パーフルオロアルキル物質(PFAS)は、主にフッ素系界面活性剤としてさまざまな用途に使用されてきました。パーフルオロオクタン酸(PFOA)とパーフルオロスルホン酸(PFOS)は、PFASの代表的な物質です。PFASは、胎盤関門を通過できるため、胚や胎児の発育に悪影響を及ぼすと言われています。しかし、PFASの胎内曝露と、DNAの化学修飾(メチル化など)に基づいた後天性遺伝子制御システム(エピジェネティクスといいます)との関連に着目した研究はほとんどありませんでした。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんのPFAS曝露に関与した臍帯血からDNAを抽出し、DNAメチル化(遺伝子に印をつけて、遺伝子の働きをコントロールすること)の変化をゲノム全域にわたって調査しました。

どのようにして調べたの?
  1. お母さんの血液からPFOSとPFOAの濃度を測定しました。
  2. 臍帯血からゲノムDNAを抽出し、DNAのメチル化を測定しました。
  3. 上記1と2のデータがすべて揃う北海道スタディ札幌コホートの190組の母児ペア(日本人、探索集団)と37組の母児ペア(台湾人、再現集団)を解析しました。
この研究が明らかにしたこと

札幌コホート(探索集団)では、お母さんの血液中のPFOSとPFOAの曝露率が高い上位20の中で、臍帯血のDNAメチル化率に差異が見られる部位(DMR)が4つ見つかりました。ZFP57遺伝子に、PFOA曝露と関連するDNAメチル化可変領域(遺伝子発現を制御する領域のこと)をエラー率0.1未満で発見しました。これは、台湾の再現集団でも同じ結果が示されました。PFOSとPFOAの両方の曝露に関連するDNAメチル化可変領域として、ZFP57遺伝子など幾つかの遺伝子で見つかりましたが、これらも、再現コホートで同じ結果が示されました。

 

この研究で得られたこと

この研究では、比較的に低濃度のPFASであっても、妊娠中のお母さんが曝露された場合、出生時のDNAメチル化の変化に影響を及ぼす可能性が示されました。しかし、PFAS曝露と因果関係のある健康転帰(治療後の健康状態のこと)とDNAメチル化の変化との関連性については長期的な研究が必要であることを示す結果となりました。

 

出典:
Ryu Miura, Atsuko Araki, Chihiro Miyashita, et al., An epigenome-wide study of cord blood DNA methylations in relation to prenatal perfluoroalkyl substance exposure: The Hokkaido study. Environment International 115 (2018) 21–28.

(2020 IF: 9.621)