妊婦がダイオキシン類に曝されると、子どもへの影響に男女差がありました

この研究の背景

化学物質には、環境中で分解されにくいうえ、体内に蓄積されやすく、生物や環境への有害性が懸念され、かつ環境に放出されると国を越えて長距離移動するという特性を持つものがあります。このような化学物質を、残留性有機汚染物質と呼び、これには、ダイオキシン類(DLC)といった化学物質が含まれます。妊娠中のお母さんがこのDLCにさらされた場合、おなかの赤ちゃんの生殖機能やステロイドホルモン合成に影響を与えると言われています。しかし、このことについての研究報告はあまりありません。

この研究の目的

北海道スタディでは、妊娠中のお母さんのDLC暴露と、出産後の臍帯血中に含まれる生殖ホルモンやステロイドホルモンとの関係について、赤ちゃんの性別による違いを検討しました。

どのようにして調べたの?
  1. 妊娠中期、あるいは後期、または出産直後のお母さんの血液から29種類のDLCの濃度を測定しました。
  2. 臍帯血から生殖ホルモンとステロイドホルモンの濃度を測定しました。
  3. 上記の1と2のデータがすべて揃う183組の母児ペアを解析しました。
この研究が明らかにしたこと

男の子では、お母さんの血液中のDLC濃度が上昇すると、臍帯血中のテストステロン/エストラジオール比(T/E2比)、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、インヒビンBが減少し、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、DHEAとアンドロステンジオンの合計/コルチゾールとコルチゾンの合計の比(AA/GC比)が増加しました。一方、女の子では、お母さんの血液中のDLC濃度が上昇すると、臍帯血中のDHEAとAA/GC比が減少し、コルチゾールとコルチゾン、SHBGが増加しました。したがって、お母さんの血液中のDLC濃度と臍帯血中に含まれるホルモンの関係が、赤ちゃんの性別によって異なることがわかりました。

この研究で得られたこと

今回の研究では、男の子の場合、お母さんの胎内におけるDLCの暴露が、ステロイド産生を変化させ、その結果、インヒビンBの分泌を抑制することが明らかになりました。しかし、思春期のはじまりや発達といった長期的な影響を検討するには、さらなる研究が必要であるという結果になりました。

 

出典:
Chihiro Miyashitaa, Atsuko Arakia, Takahiko Mitsui, et al., Sex-related differences in the associations between maternal dioxin-like compounds and reproductive and steroid hormones in cord blood: The Hokkaido study. Environment International 117 (2018) 175–185.

(2020 IF: 9.621)