赤ちゃんの出生サイズには、妊婦さんのカフェイン摂取量と代謝酵素が関係している

この研究の背景

カフェインは私たちがコーヒーやお茶、炭酸飲料などから摂取している物質です。カフェインは肝臓で代謝され、パラキサンチン(代謝物の約8割)やテオブロミン、テオフィリンなどの物質になり、最後は尿と共に体外に排泄されますが、カフェインを代謝する速度には「遺伝子の型」による個人差があることがわかっています。ヒトの遺伝子は父親と母親から来た二つの対立遺伝子(アレル)で作られていて、両親の対立遺伝子(アレル)の組み合わせにより、CC型、AA型、もしくはCA型という遺伝子型になります。妊婦さんが摂取したカフェインは胎盤を通過するため、胎児にも影響があると考えられていますが、影響はほとんどないという報告もあります。その理由として考えられるのが、お母さんの遺伝子の型によるカフェインの代謝速度の違いです。代謝が速いタイプ(AA型)ではカフェインがすぐにパラキサンチンなどの代謝物になります。

 

この研究の目的

妊娠中のカフェイン摂取量が胎児の発育に及ぼす影響を遺伝子の要因も含めて調べることです。カフェインの代謝に関わっている酵素CYP1A2(遺伝型はCC型、AA型、もしくはCA型)について検討しました。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年~2005年に札幌東豊病院を受診した妊婦さん(476名)を研究の対象としました。
  2. 妊娠23~35週に自己記入式のアンケートに答えていただき、1日当たりのカフェイン摂取量を計算しました。
  3. 採血をして妊婦さんのCYP1A2遺伝子の型を調べました。
  4. 出生時に赤ちゃんのサイズ(身長、体重、頭囲)を測りました。
この研究が明らかにしたこと

妊娠中に喫煙していた妊婦さんは102名(21.4%)で、カフェイン摂取量が多い傾向がみられました。喫煙した妊婦さんの赤ちゃんは、非喫煙の場合と比べて出生時体重が85g少なくなっていました。非喫煙でカフェインの代謝が速いタイプ(AA型)妊婦さんが1日300 mg以上のカフェインを摂取すると,そうでない妊婦さんに比べて赤ちゃんの出生時体重が277gも少なくなりました。しかし、喫煙した妊婦さんの赤ちゃんではこのような関連はみられませんでした。

 

 この研究で得られたこと

カフェインの代謝が速いタイプ(AA型)で赤ちゃんの出生サイズが小さくなったことから、胎児への影響はカフェインそのものより、カフェインの代謝物であるパラキサンチンの方強く、代謝が速い妊婦さんではこのパラキサンチンがより多く胎児に移行していたと考えられます。喫煙した妊婦さんの赤ちゃんではこのような関連はみられませんでしたが、これはカフェイン代謝速度の違いより、喫煙の方が胎児の成長への影響が強かったためと考えられます。日本人の約4割は代謝が速いタイプと言われているので、妊娠中に喫煙しないことはもちろん、カフェインの摂取も1日当たり300mgを超えないよう注意することが胎児の成長にはとても重要です。

 

出典:
Seiko Sasaki, Mariko Limpar, Fumihiro Sata, et. al., Interaction between maternal caffeine intake during pregnancy and CYP1A2 C164A polymorphism affects infant birth size in the Hokkaido study, Pediatric Research volume 82, pages19–28 (2017).

(2020 IF: 3.756)