妊婦さんの血液中ダイオキシン物質量と小児の性差による神経発達との関係

この研究の背景

PCBやダイオキシン物質などのホルモン分泌を阻害する物質は、健康に様々な影響を与えています。妊婦さんの血中ダイオキシン物質の量が増えると、小児の精神や運動の発達が遅れることが世界中の研究で報告されています。しかし、男児と女児でのそれらの影響度の違いはほとんど研究されていません。

この研究の目的

妊婦さんの血液中での様々なダイオキシン物質の量と小児の精神や運動の発達の度合いとの関係を調べ、さらには、男児と女児でのそれらの影響度の違いを調べる事です。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年7月~2005年10月の期間に札幌東豊病院を受診した妊婦さんと、その小児を研究の対象としました。
  2. 妊娠中期から後期に、妊婦さんに自己記入式のアンケートに答えてもらい、また、各妊婦さんから約40mLの血液を採血して、血液中の様々なダイオキシン物質の量を測りました。
  3. 生後6ヵ月の時点の乳児と生後18ヵ月の時点の幼児に、神経発達の程度を評価する検査を受けてもらいました。また、この時点で家庭環境に関するアンケートにも答えてもらいました。
この研究が明らかにしたこと

生後6ヵ月の乳児群(190組の母子)及び生後18ヵ月の幼児群(121組の母子)が研究の対象となりました。生後6ヵ月の乳児群と生後18か月の幼児群の母親、子どもの特徴は同様の傾向にありました。

男児では、生後6ヵ月の乳児群で10種類のDLC物質の量が増えると運動発達の得点が低下していました。しかし、生後18ヵ月の幼児群ではこの関係を認めませんでした。

女児では、生後6ヵ月の乳児群でわずか1種類のDLC物質の量が増えると運動発達の得点が低下していました。しかし、男児とは対照的に、生後18ヵ月の女児群では6種類のDLC物質の量が増えると精神発達の得点が上昇していました。

 この研究で得られたこと

妊婦さんの血液中ダイオキシン物質による小児の精神発達や運動発達に対する影響は、男児の方が強いと考えられます。そのため、環境レベルでのPCBやダイオキシン物質による小児の精神・運動発達に対する影響には、胎児期の性ホルモンが関係していると思われます。さらに、本研究の結果より出生後の行動発達や性発達に関して、性ホルモンの作用を調査する必要があると思われます。

出典:
Sonomi Nakajima, Yasuaki Saijo, Chihiro Miyashita, et. al., Sex-specific differences in effect of prenatal exposure to dioxin-like compounds on neurodevelopment in Japanese children: Sapporo cohort study, Environmental Research 159 (2017) 222–231.

(2020 IF: 6.498)