妊婦の遺伝子による能動喫煙や受動喫煙の健康への影響度の違い

この研究の背景

2014年では、9.5%に幼児の出生時の低体重(LBW)がみられ、妊娠での頻度の高い合併症となっています。LBWは小児期の太りすぎや糖尿病になる危険を増やすだけでなく、成人になってからのメタボや心臓病のリスクを増加させます。

これまでの数多くの研究により、妊娠中に妊婦がタバコを吸うと、幼児の出生時の体重が減ることが分っています。私達の研究でも、妊娠中に妊婦がタバコを吸うと、出生時の体重が平均で71~135g減っていました。また、妊婦の遺伝子的な違いにより、胎児の発育に対する妊娠中の喫煙の影響度に違いが出ることも分かってきました。

この研究の目的

出生時の赤ちゃんのサイズに影響を与えているコチニン(ニコチンの体内での代謝物)の量と、妊婦さんの遺伝子の違いとの間の関係を調べる事です。

どのようにして調べたの?
  1. 研究開始時のアンケート調査を妊娠初期に行い、基本情報を得ました。
  2. 出産までの妊娠期間や乳児の性別などを診療記録から集め、出生4ヵ月目に母子手帳より、出生時の体重、身長、頭囲の情報を得ました。
  3. 妊娠後期の8ヶ月目に妊婦さんから採血をし、血液中のコチニン量と関連すると思われる8種類の遺伝子について調べました。
  4. 妊婦さんの血液中コチニン量に従って、少ない方からレベル1(733名)、レベル2(630名)、レベル3(635名)、レベル4(632名)、レベル5(633名)の5群に分けました。
  5. 妊婦さんのコチニン量の違う5群と8種類の遺伝子の違いと出生時の赤ちゃんのサイズ(体重、身長、頭囲)の違いの間の関係を調べました。
この研究が明らかにしたこと

合計3263名の妊婦さんが研究の対象となりました。5群のコチニンレベル間での乳児の男女比は同様でした。初産婦の半数以上が妊娠初期に飲酒をしていました。赤ちゃんの出産時のサイズ(体重、身長、頭囲)は、赤ちゃんの性別、妊娠期間、妊娠前のお母さんの身長及び体重、そして出産回数と強く関連していました。

妊婦さんのコチニン量が増えると、それに比例して赤ちゃんの出産時の体重、身長、頭囲が減る傾向がみられましたが、赤ちゃんの出生時サイズの低下度は、中程度~多量のコチニン量があり、2つの遺伝子が通常とは違う形をしている妊婦さんで最大となりました。

 この研究で得られたこと

妊婦さんの遺伝子と喫煙環境が相まって、出生時の赤ちゃんのサイズに強い影響を及ぼしていることが分りました。2つの遺伝子が通常とは違う形をしている妊婦さんではコチニン(つまりニコチン)の分解が遅くなり、その分だけ胎児への影響度が強くなっていると考えられ、胎児に入ったコチニンは胎児の細胞組織にダメージを与えるので、出生時の赤ちゃんのサイズが小さくなるのだと考えられます。

 

出典:
Sumitaka Kobayashi, Fumihiro Sata, Seiko Sasaki, et. al., Modification of adverse health effects of maternal active and passive smoking by genetic susceptibility: Dose-dependent association of plasma cotinine with infant birth size among Japanese women—The Hokkaido Study, Reproductive Toxicology 74 (2017) 94–103.

(2020 IF: 3.143)