妊婦さんの血液中のトリグリセライド及び脂肪酸の量とフタルビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)関係

この研究の背景

フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)は最も広く使われているビニールの可塑剤で、食品容器やビル建材、衣類、車用品、医療機器、小児用品(口をつけやすいおもちゃを除く)の製造に使われています。

DEHPはビニールと化学的に結合しないため、使用の度に、また、時間経過とともにいたるところに飛び散る、環境汚染物質です。DEHPは、動物実験で生殖発生毒性が確認されています。妊婦さんがDEHPを取り込むと、出生までの妊娠期間が短くなり、精神の発達が遅れたり、出生時体重が少なかったりします。

DEHPが身体に入るとMEHPに代謝されますが、特に妊婦や乳児の健康に対するこれらの影響は明らかになっていません。

この研究の目的

妊婦さんの血液中のMEHPを測ることでDEHPの量を推定し、血液中のトリグリセライド(TG)や脂肪酸(FA)及び乳児の出産結果との間の関係を検討することです。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年7月~2005年10月の期間に札幌東豊病院を受診している妊婦さん(妊娠23~35週)514名が本研究に登録されました。
  2. 妊娠中期終了後にアンケート調査を行って、様々な情報を得ました。
  3. 本研究に組み込まれた次の来院時に妊婦さんから約40mLの血液を採血し、MEHPとTG、9種類のFAを測定しました。
  4. 最終的に、318組の母子のデータを解析しました。
この研究が明らかにしたこと

30歳未満の妊婦さんが48.1%で、約52%が初産婦で、37.4%が初妊娠でした。妊娠中に21.4%の妊婦さんがタバコを吸っていて、33.3%の妊婦さんがお酒を飲んでいました。151名(47.5%)が男児で、出産時の妊娠期間が40週未満のお母さんが53.8%でした。

全ての妊婦さんでMEHPが検出され、MEHP量が10倍になるとTGが25.1 mg/dL減り、4種類のFAも低下しました。しかし、妊婦の血中MEHP量と乳児の出生時の体重、身長、胸囲、頭囲との間に関係を認めませんでした。

この研究で得られたこと

妊婦さんの血液中にMEHP(DEPHの主要代謝物)が増えると、胎児の栄養となる血液中のTGや4種類のFAが減ることが分りました。この関係を明らかにしたのは、本研究が初めてです。この結果から、DEPHには妊婦さんの血液中脂質の低下作用があることが判明しました。

一方で、妊娠終期(35~41週)では、MEHPやFAの一種であるステアリン酸、そしてDHA等が減り、TGやFAの一種であるパルミトレイン酸とオレイン酸が増えていました。

 

出典:
Xiaofang Jia, Yukiko Harada, Masahiro Tagawa, et. al., Prenatal maternal blood triglyceride and fatty acid levels in relation to exposure to di(2-ethylhexyl)phthalate: a cross-sectional study, Environ Health Prev Med. 2015 May;20(3):168-78.

(2020 IF: 3.674)