学童とその家族での尿中フタルエステル代謝物量と1日当たりのフタルエステル摂取量の比較

この研究の背景

フタル酸エステル類はプラスチックの可塑剤として、おもちゃや食品の容器、家具、パーソナルケア製品、薬のコーティング、電線などに幅広く使われています。日本ではフタル酸エステルとしてDEHPが最も多く使われていて、室内のほこりに含まれるDEHPの量は諸外国より日本の方が多いことがわかっています。DEHPは主に食事から体内に取り込まれます。

DEHPやDiNPは生殖能に害を与えることが動物実験で示されており、そのため、日米欧ではここ数十年で、おもちゃや育児用品にこれらを使用することを禁止しました。それにも係わらず、いまだにヒトの尿や血液、だ液、母乳などから検出されています。尿中のフタル酸エステル代謝物は、ヒトのフタル酸エステルへの取り込み長を測る指標として使われています。しかし、子供とその家族での尿中のフタル酸エステル代謝物を比較した研究はこれまでに行われていません。

この研究の目的

同じ生活条件と家庭環境にいる、子供と家族(成人)との間でのフタル酸エステル類への曝露濃度の違いを明らかにすることです。

どのようにして調べたの?
  1. 128軒の家庭から承諾が得られ、生活環境の測定、ほこりの収集、尿サンプルの回収、アンケート調査などを2009年と2010年の10月と11月に行いました。
  2. 128軒の家庭の462名(男性224名、女性238名)の家族から、479検体の尿とアンケートを回収できました。
  3. 各人で測定するフタル酸エステル類の1日摂取量を、それぞれの尿サンプル中のフタル酸エステル代謝物の量から計算して求めました。
  4. 7種類の尿中フタル酸エステル代謝物濃度を測定しました。
この研究が明らかにしたこと

MnBPを除く、全てのフタル酸エステルの代謝物が測定した尿サンプルの半数以上から検出されました。最も多く検出された代謝物はMEOHPで、98.9%の尿サンプルで認められました。

代謝物MECPPは、母親で56.7%、父親で57.6%に検出されたのですが、就学前の小児で93.1%、学童で92.7%、学童以上の兄弟で80.6%と大きな差が認められました。このことから、就学前の小児と学童での1日当たりのフタル酸エステル摂取量は、両親よりはるかに多いことが推定されました。

この研究で得られたこと

学童での尿中フタル酸エステルの代謝物の合計量は、家庭内のほこりに含まれるDEHP量と比例していました。DEHPへの汚染原としては食事や食料品が主ですが、それに加えて家庭内のほこりも関与していると思われます。

学童での尿中フタル酸エステル代謝物の量と1日当たりのフタル酸エステル摂取量は、父親よりも、母親のそれらの量と強く関連していました。これは、家庭内で母親と過ごす時間が父親より長く、母親と同様の食生活や居住環境にいるためと考えられます。

 

出典:
Yu Ait Bamaia, Atsuko Araki, Toshio Kawai, et. al., Comparisons of urinary phthalate metabolites and daily phthalate intakes among Japanese families, International Journal of Hygiene and Environmental Health 218 (2015) 461–470.

(2020 IF: 5.840)