妊婦さんの血液に含まれる残留性有機汚染物質及び水銀の量と、様々な背景因子との関連性

この研究の背景

ポリ塩化ビフェニール類(PCDDやPCDF、ダイオキシンなどのPCB類)などの汚染物質及び水銀は、環境だけでなく、妊娠可能年齢の婦人を含むヒトにおいても幅広く認められる化学物質です。

妊娠中や産後の時期にこれらの物質に汚染すると、がんの発病や奇形の発生、ホルモン分泌や免疫、生殖能に影響が出る可能性があります。世界各地で行われている疫学研究によりますと、妊婦さんの血液中の環境化学物質の量が日常行動や食事の習慣、世帯収入などの特徴と関連していると報告しています。

日本では、魚介類がPCBやPCDD、PCDFさらには水銀の主な汚染原になっています。さらに、喫煙や飲酒の習慣がこれらの化学物質の体外への排泄を減少させています。

この研究の目的

日本人の妊婦さんを対象に、血液中の環境化学物質の量と、日常行動や食事の習慣、世帯収入などの特徴の間の関連性を検討することです。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年7月~2005年9月に札幌東豊病院受診された322名の妊婦さん(妊娠23~35週)を対象に研究を行いました。
  2. 妊娠後期に、自己記入式のアンケートと食事の習慣のアンケートに答えていただきました。
  3. 妊娠後期に、妊婦さんから40mLの血液を採血し、髪の毛のサンプルをいただきました。
この研究が明らかにしたこと

妊婦さんの約半数(52.2%)に喫煙歴があり、17.1%の方が妊娠中にタバコを吸っていました。73.6%の妊婦さんに飲酒歴があり、30.1%の方が妊娠中にお酒を飲んでいました。

環境化学物質の量と妊婦さんの年齢、妊娠中のアルコール消費量、魚肉の摂取量、遠海魚の摂取量、牛肉の摂取量、世帯収入との間に比例関係がありました。一方、環境化学物質の量と出産回数、喫煙歴、採血時期との間に反比例関係がありました。

この研究で得られたこと

殆どの環境化学物質では、多種類の化学物質が同時に検出され、それぞれの化学物質の量は互いに比例していました。

私達の研究では世界で初めて、喫煙歴と環境化学物質の量が反比例していることを明らかにしました。タバコを吸うと、PCDDやPCDF、DL-PCB、さらにはPFOSなどの物質を分解する酵素類の働きが強まることが分っています。

一方、妊娠中にお酒を飲むと、PCDDやPCDF、DL-PCB、NDL-PCBなどの量が増える事も分りました。お酒を飲むと、肝臓の解毒酵素類が影響を受けて、これらの化学物質の排泄が遅れること、また、脂肪の多い食物をたくさん食べるので、これらの化学物質が増えてしまうこと、などが原因と考えられます。

 

出典:
Chihiro Miyashita, Seiko Sasaki, Yasuaki Saijo, et. al., Demographic, behavioral, dietary, and socioeconomic characteristics related to persistent organic pollutants and mercury levels in pregnant women in Japan, Chemosphere 133 (2015) 13–21.

(2020 IF: 7.086)