母親の妊娠うつと乳幼児の発育との関係

この研究の背景

妊娠中のストレスや不安、うつ状態といった精神的苦痛と乳幼児の発育との間の関連性に関する認識が増大している中で、動物モデルや人間生理学や疫学での研究が行われています。

様々な動物実験より、妊娠中にストレスに晒された母獣から生まれた仔では、ストレスに晒されていない母獣から生まれた仔に比べて、学習行動に多くの問題が認められています。また、人間の母子を対象とした大規模長期継続研究によって、出産後のうつとは別に、妊娠うつが子供の発育に影響を与えていることを明らかにしています。

この研究の目的

これまでの研究によって影響を与えていると考えられているいくつかの要因に加えて育児環境を考慮したうえで、妊娠うつと乳幼児の発育との間の関連性を検討することです。

どのようにして調べたの?
  1. 札幌近郊に在住していて、2002年7月~2005年10月の期間中に札幌東豊病院を受診した妊婦さん(妊娠23~35週)154名を対象としました。
  2. 妊婦さんから研究開始時に自己記入式のアンケートに答えていただき、さらに、妊娠うつの状態を調べるEPDS質問票に回答していただきました。
  3. 乳幼児の発育に関しては、生後6ヵ月の時点で、就学前の小児の発育状態を調べるBSID-II質問票に回答していただきました。
  4. 産後うつの状態を調べるために、出産後1ヵ月の時点でお母さんにEPDS質問票を郵送し、3ヵ月以内に返送していただきました。
この研究が明らかにしたこと

研究に参加した154名の妊婦さんの平均年齢は31.4歳で、78名(50.6%)が男児、残りの76名(49.4%)が女児で、71名(46.1%)が第一子でした。妊娠期間の平均は275.7日、出生時体重の平均は3090.5gでした。EPDSのスコアより9名(5.8%)の妊婦さんが妊娠うつと判定され、また、21名(13.6%)のお母さんが産後うつと判定されました。

妊娠中のEDPSスコアと乳幼児のBSID-IIスコアを直接比較すると、両者には比例する傾向がみられました。しかし、影響を与えていると考えられている複数の要因を考慮すると、この比例関係は消えてしまいました。そこで、影響を与えていると考えられている要因と妊娠中のEDPSスコアを調べると、妊娠期間が短いほどうつ傾向が強くなりました。さらに、影響を与えていると考えられている要因と乳幼児のBSID-IIスコアを調べると、妊娠期間が短いほど乳幼児の精神発育状態が悪くなりました。

この研究で得られたこと

お母さんの妊娠うつと乳幼児の発育とのあいだの関連性を検討したところ、妊娠期間がこれらと関連している可能性のあることが分りました。つまり、お母さんの妊娠うつによって妊娠期間が短くなり、妊娠期間が短くなることによって生まれてきた乳幼児の発達に遅延が生じる可能性があると考えられます。但し、乳幼児が育つにつれて発達の遅れを取り戻すことは十分に考えられ、必ずしも発達障害などに結びつくわけではありません。

 

出典:
Yuko Otake, Sonomi Nakajima, Akiko Uno, et. al., Association between maternal antenatal depression and infant development: a hospital-based prospective cohort study, Environ Health Prev Med (2014) 19:30–45

(2020 IF: 3.674)